And I am...番外編5/i | ナノ
And I am...番外編5/i
総一郎から証明写真を撮りにいくと言われ、パスポートセンターへ寄り、その後、『ブォンリコルド』で食事を済ませた。彼は終始、上機嫌だ。
「旅行ですか?」
帰宅してから尋ねると、総一郎が笑って頷く。洋平の羽織っていたコートを脱がした彼は、マフラーと一緒にクローゼットへ入れてくれた。
「家にいてばかりじゃ、つまらないだろう? 旅行はストレス解消にもいいらしい。あったかい国に行こう」
総一郎はキッチンでジンのボトルを開け、洋平にはジンジャーエールを多めに注いだジンバックを用意してくれる。二人で並んでソファへ座り、グラスを合わせた。煙草をやめて、酒量が増えても、総一郎は少しも太っていない。相変わらず均整の取れた肉体は、触れると硬い筋肉がついていた。
「ストレスなんて……でも、総一郎さんと旅行できるのは嬉しいです」
長期休暇は年末年始くらいしかない。総一郎にとっても羽を伸ばす機会だろう。洋平の言葉に彼は破顔する。
「実はもう行き先を決めてあるんだ。パスポートができたらチケットを見せるから」
先に教えて欲しいとねだっても、総一郎は笑うだけだ。洋平は頬を膨らませて拗ねたふりをしたが、行き先はどこでもよかった。二人一緒なら、どこでも楽しめるだろう。
今では考えられないが、出会った当初はこの手に殴られたな、と思い出しながら、洋平はまだ寝息を立てている総一郎の手を握った。今、彼の手は自分を守ってくれる手に変わった。
上質のベッドはいつまでも眠っていたいと思うほど気持ちいい。しばらく総一郎の手を握り、目を閉じていた洋平は、ぱっと目を開き、起き上がった。
気持ちが高ぶっていて二度寝ができない。柔らかな円形の絨毯の上をそろそろと歩いた。絨毯が途切れると、ひんやりとした大理石の床になる。
チケットの行き先はドバイになっており、総一郎は色々な観光雑誌を洋平に渡した。彼は十日間しか休みが取れず、五泊七日の旅になった。
宿泊するホテルを前にして、洋平は初日から飛行機の長旅による疲れが吹き飛んだ気がした。海の上に浮かんでいるように見えるホテルへ連れられ、ホテルの内装だけでも圧倒されたのに、総一郎はスイートルームへ移動して、洋平を中へ招き入れた。レストランで食事だけかと思ったが、どうやら違うらしい。
床から天井までガラス張りの窓からは、海と砂漠が見えた。あまりにも豪華過ぎて、自分の存在だけが場違いな気がする。それでも目の前の景色に感動していると、総一郎がうしろから抱き締めてきた。
「こんな、豪華な旅行、初めてです……」
総一郎のくちびるが洋平のうなじを這う。彼は鼻先で洋平の耳たぶを突つき、最後に頬へキスをした。彼は頬を滑る涙に気づき、洋平と向き合う。
「どうした?」
優しく涙を拭われて、洋平は窓から見える荘厳な景色から愛する人へ視線を移した。
「どこにいたって、総一郎さんとなら幸せだって思うんです。それでも、あなたは、いつも、俺に最高のものを与えようとするから、それが、俺なんて、本当はそんな価値ないのに、あなたがいつも、愛してくれるから……すみません、うまく言えない……」
総一郎の服の裾を握ると、彼は小さく息を吐いた。
「誤解からひどいことをしてきた。その罪悪感から、おまえのことを好きになったわけじゃない。分かるか?」
洋平が頷くと、総一郎は続ける。
「ひたむきなおまえのことが好きだ。おまえといると落ち着く。おまえが笑ってくれるだけで、また頑張ろうと思える。ここにしたのは、初めての旅行だったからだ。おまえと特別な思い出を作りたいと思った。一緒に楽しもう」
手を差し出されて、洋平は総一郎の手を取った。階段を上がると、バスルームと寝室がある。二人でシャワーを浴び、まだ明るい日射しが入る部屋の上質なベッドの上で、互いをむさぼり合った。夜中に一度だけ起きた時、あまりにも空腹過ぎて、ルームサービスを使い、軽いものを食べた。その後はまたセックスをして、本来なら疲れて昼頃まで眠っているはずだが、洋平は興奮して二度寝できなかった。
階段を下りて、リビングルームのガラス張りの窓から外を見る。うっとりするほどきれいな景色に溜息しか出ない。事前に読んでいた観光雑誌をバッグから取り出し、洋平はさっそく付箋を貼っているページを開いた。 |
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