And I am...26/i | ナノ


And I am...26/i

 ハンバーグにしょうゆをかけていると、総一郎がケチャップのふたを閉じて笑う。ケチャップ以外をかける人間を初めて見たと言っていた。洋平はほほ笑みを返して、ポテトサラダを口へ運んだ。
 小さくせき込む。総一郎が箸を止めて、立ち上がった。こちらへ来て、そっと背中をなでてくる。
「大丈夫か?」
 洋平が頷いても、総一郎は席へ戻らず、その場にひざをつく。額に彼の手が当たった。
「無理してないか? 少し熱がある」
 喉が痛いだけで、体はまだ何ともなかった。首を横に振ったが、総一郎は明るい表情を見せず、食べ終わると、片づけはいいから、とベッドへ寝かされた。
「すみません」
 一日中、家にいるくせに、どうして体調を崩してしまのか。洋平は自分の弱さに呆れて涙を流した。川崎の手紙のために、ここで生活を見てくれる総一郎をいつまでも頼ってしまう。
「苦しいのか?」
 涙の理由を勘違いした総一郎が、濡れた冷たいタオルを額へ置いてくれる。
「違います……」
 総一郎は苦笑いすると、「別に迷惑だとは思っていない」と言った。驚いて彼を見ると、彼はタオルで洋平の頬をつたう涙を拭いた。
「親父の墓参り、行くか? 来月は忙しくなるだろうから、今月中に……体調がよくなったら」
 行きたいと思っていても、ずっと口に出せなかったことだ。洋平はまた新しい涙を流す。それを肯定と取った総一郎は、そっと髪をなでてくれた。

 最近は総一郎に合わせて起き、朝食の準備をしている。疲れが出たら昼寝もしているのに、体調を崩していた。おそらくストレスからだろう。だが、何に悩んでいるのか、誰にも話したくない。
 耳鳴りと喉の痛みにベッドで休んでいると、帰宅した総一郎が入ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま。どうだ?」
 手を洗ったばかりなのか、少し濡れた冷たい手が額へ触れる。
「熱はそこまでないな」
「すみません」
 夕食も準備していないあげく、乾燥機の中へ洗濯物を入れたままだ。何の役にも立たない自分が情けなくなる。
「何を謝る必要があるんだ? 調子が悪いなら仕方ないだろう」
 総一郎はそう言って、少しの間、洋平のことを見つめた。その瞳に映る優しさに、洋平は涙を拭う。無条件で受け入れてくれるのは母親と会田達だけだと思っていた。
「総一郎さん……」
「何だ?」
「ありがとうございます」
 総一郎は笑うと、髪をなでてから、出ていった。ブルーライトの光の中で、洋平は嗚咽を漏らした。優しくされればされるほど、ここを出ていく日がつらくなる。

 午前中に行こうと言われ、洋平は総一郎とともに郊外の霊園に来ていた。立派な墓石ばかりが並んでいる。大酒飲みだったという川崎は長年、肝臓を患っていた。それでも、総一郎は飲酒を禁止できなかったと語る。
「俺も酒、好きだから」
 墓前で手を合わせた後、総一郎は苦笑した。洋平は再度、墓前へ向き直り、目を閉じる。川崎へ感謝を告げた。彼との時間は穏やかで楽しかった。彼は自分の求めた父親を見事に演じてくれた。
「洋平」
 目を開けると、総一郎が洋平の肩から落ちかかっているストールを巻き直してくれる。まだそこまで寒くはないが、喉を守るためだと言われた。
「『ブォンリコルド』へ行こうか?」
 返しそびれている会田の衣服が入った紙袋を軽く上げて、総一郎はほほ笑んだ。


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