And I am...23/i | ナノ


And I am...23/i

 冷蔵庫を開けた洋平は中に入っていた出来合いの物を取り出した。いつ誰が買い足しているのか分からない。同様に、部屋の掃除やクリーニング店へ出す洗濯物もいつの間にか終わっている。
 優秀な秘書がいないからか、総一郎は忙しいようだ。一週間、まともに会話をした覚えがない。洋平は彼が仕事へ行く時間はまだベッドの中で、帰ってくる頃には寝ている。彼は二階で寝ているようだ。
 体調はすっかり戻り、天気がよければ、多少肌寒くても、裏庭に出た。総一郎は先週、大量のDVDと最新のノート型パソコンを用意してくれた。家の中で快適に過ごせるが、時おり、外へ出るべきだと考えている。まだ一人で外には出るなと言われているものの、裏庭ならいいと許しが出ていた。裏庭へは家の中からしか行けないからだろう。
 洋平は一人で過ごすことに慣れている。今の生活はとても楽で、総一郎のことを憎んだこともあるのに、今は薄れている。ただ、このままの状態がいつまでも続くはずがないため、洋平はインターネットの求人サイトを見て回った。
「ただいま」
 いつもなら遅い時間に帰宅する総一郎の声に、洋平はソファから立ち上がった。ノート型パソコンをテーブルへ置き、玄関へ向かう。
「……おかえりなさい」
 総一郎は疲れているようだが、靴を脱ぐと顔を上げた。
「もう食べたか?」
「うううん、まだです」
 洋平は総一郎の後をついて行く。彼はバスルームで顔を洗い、手を洗った後、うがいをした。それから、スーツを脱ぎ、設置されているクリーニング店のロゴが入ったボックスへ入れる。
「そういえば、おまえ、料理はできるのか?」
 寝室のクローゼットから部屋で着るラフなシャツとズボンを取り出し、着替え終えた総一郎が、冷蔵庫を開けながら聞いてくる。彼はプラスチックのパックをキッチンカウンターへ並べた。
「少しならできます」
 総一郎は電子レンジで温めながら、炊飯器のふたを開ける。
「そうか。じゃあ、今週末、一週間分の買い出しにでも行くか……」
 総一郎は洋平に言っているわけではなく、独り言のようにつぶやき、茶碗に白飯をよそう。洋平の分もよそってくれた彼が、テーブルの上に食事を並べた。
「あ、俺、お茶いれます」
「頼む」
 一人で過ごしている間、温かい飲み物を飲むため、キッチンの収納棚は一通り確認していた。急須を取り出し、茶葉を用意している間に電気ケトルが音を立てた。向かい合って食べるのは初めてで、洋平は緊張していた。総一郎は出会った頃の嫌悪が嘘のように、ごく普通にこちらを見て、かすかに笑みを浮かべる。彼も緊張していたが、自分のことで精いっぱいの洋平が、そのことに気づけるはずもなかった。
 弟と重ねていないと言うが、やはり似ているからこそ、態度が軟化したのだと考えた。それは喜ばしいことの反面、洋平自身が認められていない気がして悲しい。口を動かしながら、総一郎を盗み見ると、彼は箸を握ったまま、携帯電話の画面へ視線を落としていた。
 総一郎はまるで風邪を引いている時の洋平のように、顔色がよくない。洋平は湯のみへ熱いお茶を注いだ。
「ありがとう」
 総一郎に礼を言われ、思わず彼を見つめていると、気づいた彼がこちらを見た。
「何だ?」
「……な、何もないです。あの、俺、ちゃんと自立します。仕事、見つけて、目処をつけて、一人で暮らします」
 勢いをつけるため、立ち上がっていた洋平に、総一郎がお茶を一口飲んでから告げる。
「まず、座れ」
 言われた通り座ると、総一郎は携帯電話を閉じた。箸も置いて、まっすぐにこちらを見てくる。横から見ても整った顔立ちの彼は、真正面から見ても格好いいと、場にそぐわないことを考えた。


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