And I am...21/i | ナノ


And I am...21/i

 さっそく食べたかったシャケとホウレンソウのクリームパスタを注文する。
「元気そうに見えるけど、やせましたね」
 会田の言葉に、洋平はぶかぶかの服を見た。
「だらしない格好ですみません」
「そういう意味じゃないです。すぐ作ってきますね」
 会田の代わりに店員が氷なしのミネラルウォーターを運んでくる。ランチタイムは十四時までだが、店内はまだ混み合っていた。病み上がりだった洋平は、パスタを食べることができるか心配だった。だが、目の前にピンク色のシャケと艶やかなグリーンのホウレンソウのパスタが現れると、とても食欲をそそられた。
 ゆっくりと食べて、半分ほどまで減ったところで限界になり、スプーンとフォークを置いた。ミネラルウォーターを飲んでいると、気づいた店員が近寄ってくる。今日は月曜だから、守崎が休みであることにようやく思い至った。
「ミネラルウォーターのおかわりいかがですか?」
 洋平は首を横に振り、ホットレモンティーを頼んだ。エスプレッソでもよかったが、今は紅茶の気分だった。しばらくすると、会田が運んでくる。彼は、パスタを下げていいか確認した後、持ち帰りするなら詰めてくると言った。
「いつもすみません。ありがとうございます。あ、服」
 洋平が鞄の中から服を返そうとしている時、店員達の元気な声が響いた。会田も出入口を見て、笑顔であいさつをしている。
「お知り合いですか?」
 洋平が顔を上げると、店員の案内を無視して、こちらへどんどん進んでくる総一郎と視線が合った。ここのことを教えたことはない。今の時間は仕事のはずだ。
「洋平、まだ家にいろって言っただろ」
 総一郎にしては焦った声で言う。洋平は会田が手にしている皿を見た。
「どうしても食べたくて……すみません」
 最後のすみませんは、勝手に外へ出たことではなく、自分の財布には入っているものの、総一郎の金だという自覚から出た。彼は溜息をつき、会田に邪魔だとでも言いたげな視線を送る。会田は一礼して、すぐに下がろうとした。
「あ、待ってください。服を返さなきゃ……」
 たたんでいるものの、会田に借りていた服はしわだらけになっていた。これでは返すのをためらってしまう。
「あいつの家に泊まったことが?」
 どうして総一郎が怒っているのか分からず、洋平は彼を見つめた。彼はスーツのポケットから煙草を取り出し、それから、そのボックスを握り潰す。店内にはもちろん喫煙席があるが、ここが禁煙席だと気づいてやめたというより、吸う気をなくしているように見えた。
「男なら誰でもいいのか?」
 聞かれた言葉の意味に、洋平は拳を握った。侮辱されていると分かったが、適当な言葉が見当たらない。すると、まだそばに立っていた会田が、静かに口を開いた。
「確認もせずにそういう言葉を吐くのは、あなたの自信のなさや弱さです。自分が傷つきたくないからといって、彼を傷つけないでください。彼は俺の大切な友達です」
 会田の言葉に洋平は目が熱くなった。涙をこらえていると、彼はほほ笑み、皿を持ってカウンターの向こうへ消える。総一郎は握り締めた煙草をポケットへ戻した。
「……その服、返すならちゃんとクリーニングに出してからにしろ。彼に失礼だからな」
 総一郎の言葉に頷くと、店員がホットコーヒーを持ってくる。
「慎也さんからです」
 総一郎は会釈し、コーヒーに口をつける。洋平もレモンティーを飲んだ。
「どうしてここが分かったんですか?」
「おまえのことは親父の手紙を見てすぐに調査させた。ここによく来ると調査書にあったから、すぐ見つけられた」
 総一郎は少し体を傾けて、テーブル下の洋平の足元を確認する。


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