ゆらゆら23/i | ナノ


ゆらゆら23/i

 ブルーのシャツを手にしたら、薄いクリーム色のシャツを着なさいと言われた。オーバーオールが着たいと言えば、似合わないから駄目だと言われた。小さい頃からそうだった。孝巳の意志は関係なく、すぐに満たされていく。だから、自分の言葉で自分の希望を伝えることをやめてしまった。
 孝巳は、「信じて」ともう一度言った。誰も、「信じる」とは返してくれない。孝巳の欲しいものではなく、似たような何かで満たすつもりだ。
「幸喜君にも話を聞いてみるわ。さぁ、これ飲んで休みなさい」
 差し出された鎮痛剤を、孝巳は受け取らなかった。
「孝巳!」
 玄関から外へ出て、前庭を突っ切るように歩く。すぐに追いかけてきた兄達が、行く手を阻んだ。
「孝巳、今は混乱してるだけだ。薬を飲んで、眠ったら、大丈夫だから」
 孝巳は裕二の言葉に、泣きながら、「そんなの気休めだ」と言った。
「こうっ、き、やめて、くれなかっ、おれ、も、いたいの、や」
 俊彦が両肩をつかみ、ぐらぐらと孝巳の体を揺らした。
「幸喜だって悩んでる。俺が言ってること分かるだろ?」
 おまえが最初に裏切ったんだろう、と俊彦は責め立てた。
「それは、それ、は、ちが、おれ、おれが……」
 軸のない世界でゆらゆらと揺れる体から力が抜けていく。地面の上に座り込んだ孝巳は、「おれがわるいの?」とつぶやいた。
 そうだ、と言った俊彦と、言い過ぎだ、と俊彦へ突っかかった裕二が口論を始める。孝巳は家へ戻り、部屋の中へ入る。携帯電話から友人である今井を呼び出し、電話をかけた。
「あ、孝巳?」
 騒々しい音が聞こえてきた。孝巳は、「俺のこと、信じる?」と尋ねる。
「え、何? 何、言ってんだよ。それより、おまえ、こっち来いよ。盛り上がってるし、楽しいぞ」
 いつもだったら、クラブにいるであろう今井の誘いには乗らない。だが、今日はどこか違う場所へ行きたいと思った。
「家に迎えに来れる?」
 今井はすぐに行くと約束してくれた。クローゼットを開け、自分の好きな色の服を取り出す。体の痛みに加え、寒気もするが、孝巳はどうでもよかった。
「孝巳、どこ行くの!」
 母親に呼び止められても、孝巳は振り返らない。それが彼女の気に入る回答でなければ、許してくれないのだと思う。
「もう少ししたら、幸喜が来てくれる」
 少し息を乱した俊彦が裕二と並んで玄関から入ってきた。孝巳はそれも無視して、門から入ってくる今井の車を待つ。
「孝巳、子どもっぽいことはやめなさい。おまえはケガをしているんだ。今はベッドで安静にする時間だろう?」
 ハイビームからロービームへ切り替えた車が、玄関前に停車した。孝巳はふらつきながら、助手席へ乗り込み、「いいのか?」と聞いてきた今井に頷く。玄関まで出てきた家族が心配しているがいいのか、という意味だと思っていた。発進した後も、孝巳は家を振り返らない。
「どこのクラブ?」
 孝巳は運転に集中している今井を見る。彼は前を向いたまま、「……いつものとこだけど」とあいまいに笑った。



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