ゆらゆら17/i | ナノ


ゆらゆら17/i

 扉が開く音は聞こえないが、人の気配には敏感になった。孝巳はバスタオルを体へ巻き、シャワールームから出ていく。食事を持った一成が、「帰りたいか?」と聞いてきた。それに頷くと、彼は孝巳の腕を取り、くちびるへキスを仕掛けてきた。それだけで、ペニスに熱が集まる。幸喜しか知らなかった時は、体の相性のことを考えたことはなかった。
 だが、今は嫌でも思い知らされる。一成とのセックスは、最高だった。くちびるが離れると、彼の指先が頬をなでた。
「泣くほど嫌なら、もっと抵抗しろ」
 一成はそう言って笑みを浮かべた。孝巳が抵抗しないということを知っていて、笑ったのだろう。孝巳は視線を落とし、自分で涙を拭う。
「……帰りたい」
 ここにいればいるほど、慣れてしまいそうで怖い。何に慣れ、何を受け入れてしまうのかは考えたくない。孝巳は一成を見つめて、もう一度、「帰りたい」と口にした。ベッドに腰を下ろした彼は、孝巳の腕を引き、指先へキスをする。
「俺のものになるなら、閉じ込めたりしない」
 一成は幸喜と別れろと告げてくる。こたえられない。彼の気持ちが純粋なものだとして、その思いがこういう形となって噴出しているのだとしても、孝巳はまだ幸喜を愛している。ここから出るためとはいえ、別れるという嘘をつけば、幸喜も彼もだますことになる。
「家まで送る」
 一成が立ち上がり、服を持って戻ってくる。約束していないのに、どうして、という顔をすると、彼は自信に満ちた表情で、「俺を選ぶ」と言った。知り合ってまだ間もないこともあるが、彼のことがよく分からなくなる。
 孝巳は返された携帯電話を見て、まだたった四日しか経っていないと知った。一成は夜しか来ていないと思い込んでいただけだ。実際には日に何度も様子を見にきていたということになる。
 送信した覚えのないメールには予想していた通り、友人の家に泊まるとある。受信メールの中に、幸喜からのメールを見つけて、すぐに開いた。体調を心配するメールだ。着信も何度かあり、留守番電話にも同じようなメッセージが入っていた。
 閉ざされている門扉の前で停車した一成が、車を降りて、インターホンを鳴らしにいく。平日の昼間のため、家には使用人達しかいない。前庭を迂回し、玄関前まで到着した時、孝巳は電話帳に一成の名前を見つけた。削除しようとすると、外からドアを開けた彼が、「消したら、またさらうぞ」と言う。
 冗談に聞こえず、孝巳は携帯電話の電源ボタンを押して、ポケットへ入れた。何も言わずに家へ上がろうとした瞬間、一成の胸へと抱き寄せられる。顎をつかまれ、見上げる形になり、そのままキスを受けた。遠慮なく侵入してくる舌を押し返そうと躍起になる。
 孝巳は一成の体を押した。軽く息を乱し、彼を睨むが、彼はもう気づいているらしく、「また」と笑った。孝巳はくちびるを噛み締め、熱を持ちかけている中心から気をそらす。
 車が走り去るのを待たず、孝巳は玄関扉を開けた。くちびるを拭いながら、視線を上げると、会社へ行っているはずの長兄、俊彦が突っ立っている。
「……ただいま」
 うしろめたさから視線を合わせずに言った。
「孝巳」
 硬い声が、自室へ隠れようとした孝巳を呼びとめる。
「今のは?」
 孝巳は振り返らず、自室へ向かって駆け出した。



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