ゆらゆら20 | ナノ





ゆらゆら20

 遮られた視界の中では、幸喜が何をしているのか分からない。だが、脱がされている下半身の状態を考えれば、楽しいことが起こるはずがなかった。
「こうっ」
 頭まで覆っていた衣服の上から、口元を押さえられる。次に感じた衝撃は、今までにないものだった。
「っうー、ん、っ」
 慣らさずに入れれば、幸喜にも痛みがあるだろう。孝巳は叫びにならない音を漏らし、涙を流し、自身の中に侵入したそれが、彼の熱ではないことを悟った。無機質で固い何かが、アナルの中を傷つけている。目の前で黒と白のサイレンが回るようだった。
 今の現状と痛みに、心が消えていく。孝巳の知っている幸喜は、こんなことをする人間ではない。きちんと話を聞いてくれる人間だ。
「孝巳、俺だけを見て」
 見て、と言われても、孝巳の視界は遮られたままだ。痛みのせいで、麻痺している意識では、まともな言葉も返せない。アナルの中に何かがあふれた。短い悲鳴を上げると、幸喜が声を立てて笑う。
「ふたが取れたみたいだ」
 しばらくして、何が入っていたか理解した。アルコールの入った瓶だろう。孝巳は呼吸が速くなるのを感じ、体にこもる熱に息を吐いた。まだ中にあるふたを取るため、幸喜が無遠慮に指を入れる。探るように動かされ、それが前立腺へ当たると、孝巳は意図せずペニスを大きくさせた。
 幸喜が笑っている。足首を引っ張り上げた彼は、彼自身をアナルへ突っ込んだ。こんな乱暴な行為は初めてだった。一成でさえ、ここまでひどいことはしていない。孝巳は短く浅い呼吸を繰り返しながら、むせび泣いた。

 既知の場所なのに、怖かった。孝巳は寝室のベッドの上で寝かされていた。拘束はされていないものの、体を動かすと筋肉痛のような痛みがあった。顔が熱く、そっと指先へ頬へ触れると、くちびるの端まで痛みが走る。
 音を立てないよう、ゆっくりと扉を開けた。廊下を通り、リビングへ出る。開いたカーテンの向こうには、きれいに磨かれたガラス窓と、いつもの景色が見えた。広がる青空に、時間を知る。
 孝巳は何も身につけていなかった。ソファの近くには、三分の一ほどしか入っていないブランデーの瓶と、ふたが転がり、そこに服も落ちている。口元を押さえた孝巳は、慌ててトイレへ駆け込んだ。
 去来する出来事に胃液を吐き出す。トイレットペーパーで口の周りと涙を拭った。トイレを出た後、孝巳は体に鞭打って、クローゼットから自分の衣服を取り出し、リビングに転がっている携帯電話と、パンツのポケットに入っていた財布を抜いた。
 自分自身の部屋へ戻りたい。その考えしかなく、孝巳は自分の姿を一度も確認しなかった。

 人通りの多い道へ出ると、周囲からの視線を一気に感じた。孝巳は顔を殴打されていたことを思い出し、ショーウィンドウに映る自分を確認する。髪はぼさぼさで、くちびるの端にはまだ血がついており、殴られたところは腫れていた。
 孝巳はタクシーを停め、家までの住所を伝える。運転手は何も言わずに発進したものの、「病院じゃなくていいんですか?」と途中で尋ねてきた。孝巳は首を横に振り、手の中の携帯電話を握る。両親は心配するから、兄達へ連絡を入れるべきだった。平日の昼間は家に帰っても誰もいない。使用人達も困惑するだけだろう。
 様々なことを考えているのに、一つのことしか考えていない気になる。早く家に帰り、自分のベッドで眠りたい。次に目が覚めたら、すべて夢だったと思いたい。
 前庭を迂回したタクシーが玄関前に停まる。料金を払い、痛みに顔をしかめながら、タクシーを降りた。鍵を開ける必要はなかった。中から、俊彦が姿を見える。その隣には、幸喜が立っていた。


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