falling down 番外編15/i | ナノ


falling down番外編15/i

 ベッドの端へ寄っていたトビアスの体をうしろから抱き締め、レアンドロスはそのうなじへキスを落とした。握った指先にあるマリッジリングへ触れ、目を閉じる。これまでは週に一度か二度だった行為だが、休暇に入ってから、ほとんど毎日のように体をつなげている。
 一緒に暮らし、職場まで同じにすれば、トビアスを閉じ込めてしまいたいという欲求はおさまると考えていた。大学時代から続くパパラッチの追いかけや、母親の圧力から逃れるためには、ここへ閉じ込めておくのがいちばんだと思えた。
 働かなくていいと言えなかったのは、将来を模索するトビアスの姿を見てきたからだった。修士課程を終え、担当教授から大学の研究室へ誘いがあった。自分に気兼ねすることはない、大学に残り、博士課程へ進むのは素晴らしいと思うと意見を言った。
 あの時、トビアスは頷いたのに、博士課程へ進む書類を準備しなかった。レアンドロスは彼の鞄に入っていたレジュメを盗み見た。彼の専攻でそれを生かした職に就く場合、イレラント国内だと特定の研究所の中でしか選べない。そして、いちばん近いのはカティエスト地熱開発研究所だった。
 用意されたレジュメは三つあったが、カティエスト地熱開発研究所は検討していないらしい。そのことについて、トビアスと話そうと思った日、彼は泣きながら恩師であるオーブリーへ電話をかけていた。
 トビアスはレアンドロスと同じ研究所で働くことを視野に入れていた。だが、それが迷惑になるのではないか、と考えていたらしい。負担になりたくない、と言って泣いているトビアスを見て、レアンドロスは迷うことなく研究所の所長室を訪ねた。
 所長はトビアスの修士論文をすでに読んでいた。採用枠一名の候補は当然、レジュメを送付している他の応募者から選定される。レアンドロスは所長とトビアスの研究と同じ分野の上司へトビアスを推薦した。
 迷惑や負担だと思うなら、自立すればいい。閉じ込められないなら、いつもそばにいて欲しい。同じ職場で働ければ、互いの思いを満たすことができる。採用通知をもらって喜んでいるトビアスを見て、自分は正しいと思った。
 自分がしたことを正しいと思う教育を受けてきた。トビアスの母親の件や彼の就職について話すことはない。

 ベッドが揺れた。レアンドロスはベッドから下り、大きく伸びをしているトビアスの背中を見つめる。
「おはよう」
 声をかけると、トビアスが振り返った。左方向に跳ねている髪へ触れながら、彼はベッドへ腰かける。
「おはよう。コーヒーにする? 紅茶がいい?」
 レアンドロスは跳ねている髪へ手を伸ばした。
「紅茶がいい」
 頷いた彼は額へキスをして、部屋を出ていく。左手で彼の眠っていた場所へ触れると、まだ温かかった。レアンドロスはもう一度、目を閉じる。
 家族の中で唯一の味方である祖母は、去年から入院していた。トビアスとともに毎月二回は見舞いへ行く。今回の結婚を報告すると、彼女は喜んでくれた。ジョシュアを含む友人達へも二人だけでしたいと伝えていた。
 薬指にあるマリッジリングをくちびるへ当て、その存在を確かめる。休暇後の出勤が楽しみでもあり、憂うつでもあった。職場の人間は皆、知っている。だが、パパラッチはどれだけ注意しても、研究所の駐車場で待ち構えている。
 車を尾行されることもある。別荘を囲む山林からすべて祖母の土地であり、私有地となるため、さすがにここまでは入ってこないものの、週末の買い物まで追われるのはうんざりする。
 着替えに戻ってきたトビアスの気配に目を開けた。髪はまだ跳ねているが、先ほどよりはましになっている。
「あとで郵便局へ行ってくる」
 半袖のシャツを着たトビアスは下をはく前にこちらへ近づいた。下着とシャツだけの姿が扇情的に見えて、レアンドロスは彼の腕を引く。


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