ゆらゆら16 | ナノ





ゆらゆら16

 半ば無理やり連れてこられたのに、落ち着くなんて、と思い、孝巳はグラスを落としそうになった。落とさなかったのは、一成がグラスを取り上げたからだ。彼のほうを見つめながら、かすかに口を開き、そのまま倒れ込む。
「人を疑えと言われなかったか?」
 一成は感心するように言い、孝巳の体を抱えた。
「な……」
 何を飲ませたのか、と聞きたい。だが、舌がうまく回らない。抱えられ、移動した先は奥の部屋ではなく、地下へ続く階段だった。孝巳の意識はしっかりしている。ただ言葉が出てこず、手足に力が入らないだけだ。
 孝巳はやわらかいソファのようなところへ体を下ろされた。階段の明かりでしか見えなかったが、一成はすぐに照明のスイッチを入れる。地下に続く部屋は陰気臭いと思っていた。孝巳は自分の体の下にあるベッドの触り心地やライム色の壁に驚く。
 地下だとは思えなかった。窓はないが、セミダブルのベッドと温かみのあるウッドテーブルが置いてある。瞳で一成の動きを追った。命の危険は感じていない。彼は一度、地下室を出て、飲み物を持って戻ってきた。視線が合うと、かすかに笑っているように見える。
 一成はベッドへ座り、仰向けになっている孝巳の髪をなで始めた。その手つきは優しい。状況が異なれば、恋人から受ける愛撫とも言える。孝巳は、どうしてこんなことをするんだろう、と考えた。
 一度目は犯し、二度目の今は言葉と手足の自由を奪っている。また犯されるのだろうか。
「っ」
 孝巳が自らの体の熱に気づいたのと同時に、一成もその変化を見逃さなかった。かすかにふくらんだ股間へ、彼の手が伸びる。犯されることを期待しているわけではない。孝巳は目を閉じて、ねだるような甘い声を出すまいとする。
「これは薬の影響じゃない。おまえ自身が今、その気になってるということだ」
 からかうような口調で言われ、孝巳は涙を流した。一成のくちびるが、目尻から頬へと触れる。その間も中心をまさぐる手はとまらず、窮屈なところから外へと出された性器は、しだいに大きく脈打ち始めた。
「っあ、ぁ、ンッ」
 射精する寸前にペニスをつかまれ、孝巳は助けを求めるように、視線を一成へと動かす。苦痛をもたらしている手は彼のものなのに、その手は快感をも与えてくれる。一成は頬を緩めると、手の動きを再開した。熱が爆ぜ、彼の手を汚していく。
 孝巳は大きく呼吸しながら、目を閉じた。おしまいの音は聞こえない。熱い手が、背中へ回り込んだ。

 窓がないと、時間の感覚が分からなくなる。孝巳は階段を上り、扉を押したり引いたりしてみた。思ったとおり、その行為は無駄であり、扉が開くことはない。階段に座り、ひざを抱えた。家族や幸喜が心配しているはずだ。もしかしたら、もう警察に届けて、捜索活動が始まっているかもしれない。
 だが、一成が彼自身の地位を脅かしてまで、自分を監禁するとは思えなかった。取り上げられている携帯電話から、適当にメールしておけば、一週間くらいなら誤魔化せるだろう。
 孝巳は階段を下り、奥にあるシャワールームへ向かう。ユニット式の簡易シャワールームだが、トイレとシャワーがあるのは助かる。体を動かすと感じるアナルの違和感にくちびるを結び、孝巳はシャワーで涙を流した。


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