falling down 番外編7/i | ナノ


falling down番外編7/i

 ジョシュアの友人達に誘われて、彼らと一緒に夕飯を食べた。ハンバーガーショップでいちばん大きいサイズのハンバーガーを二つ食べているレアンドロスを見て、トビアスは笑う。フライドポテトにマヨネーズをつけて口へ運ぶと、この後はどうするか、という話になった。もともとメインはクラブへ行くことらしく、大学付近のクラブ名が出てくる。
 類は友を呼ぶという言葉の通り、ジョシュアの友人達は彼のように知的で穏やかなタイプだ。レアンドロスを含め、彼らは先ほどから店内の女性達の視線を集めていた。トビアスは話に参加せず、レアンドロスのフライドポテトへ手を伸ばす。隣に座っていたレアンドロスが立ち上がり、店員のいるカウンターへ歩いて行った。
「トビアス、どっちがいい?」
 ここからそう遠くない二つのクラブを出されて、トビアスは、「ソフトドリンクが充実してるほう」と笑みを浮かべる。レアンドロスがマヨネーズの入ったカップをテーブルへ置いた。
「ありがとう」
 視線が合うと、レアンドロスは大きな手を肩へ回し、こめかみにキスをくれた。
「新婚みたいだな」
 向かいに座っている友人がそう言って、両隣の友人を抱き寄せる。
「俺らも恋人、欲しい!」
「法学部なら、国家試験受かるまで勉強漬けだろ?」
「だからこそ、支えてくれる恋人が欲しい」
「レアンドロスも行くだろ?」
 コーヒーを一口飲んだレアンドロスが首を傾げる。
「どこに?」
「トビアスはアジュールがいいって」
 レアンドロスはクラブの名前を聞いて、こちらを見つめた。トビアスだって、クラブくらい行くことはある。ただ、アルコールが飲めないだけだ。飲めなくても、もちろん楽しめる。視線をそらさず、彼を見つめ返すと、彼は、「日付が変わる前には帰るから」と言った。
 皆は、「過保護だな」と笑っているものの、トビアスは何か間違えたのかと不安になる。今夜は久しぶりに友人達と会った。ジョシュアもあとから合流すると聞いている。法学部は入学してから、四、五年目がいちばん大変な時期で、ジョシュアのように優秀な人間でも国家試験という難関を通るためには、ほとんどの時間を図書館で過ごしている状態だった。
 トビアスは皆、息抜きがしたいのだと思い、それに付き合おうとした。クラブの扉前に並びながら、つながれた手の先を見つめる。
「あ」
 ジョシュアの声に振り返ると、数人うしろの最後尾に彼の姿が見えた。トビアスが空いている右手を挙げて手を振る。彼は少し驚いているようだった。列は扉前で年齢確認のための学生証を見せているだけで、すぐに解消していく。中の通路で、ジョシュアが入ってくるのを待った。重低音が響いており、トビアスはレアンドロスの手を軽く握った。
「お二人とも、来たんですか?」
「日付が変わる前には帰る」
「すみません、皆、けっこう強引でした?」
「たまにはいいだろ」
 音がうるさくて聞こえ辛かったが、ジョシュアはレアンドロスと少しだけ話した後、トビアスの耳元へ口を近づけた。
「ノンアルコールカクテル、頼みますね」
 トビアスが頷くと、ジョシュアは人をかき分けるようにして、カウンターテーブルのほうへ進んでいく。レアンドロスと手をつないだまま、トビアスはホールで踊っている学生達を眺めた。顔見知りが何人か、こちらに気づいて手を挙げる。トビアスも挙げ返した。
「お待たせです」
 ビール二本とカクテルを持って来てくれたジョシュアを見て、トビアスは礼を言いながら受け取る。二人がビールにしたなら、自分はソフトドリンクにすれば手間がかからなかったかも、と思いつつ、トビアスは乾杯した後、カクテルを飲んだ。
 自ら踊ることはないが、見ているだけで十分楽しい。トビアスはジンジャーエールとライムの味がするカクテルを味わいながら、隣で同じように周囲を眺めているレアンドロスを見上げた。
 彼はトビアスがアルコールを飲めないことを知ってから、飲まなくなっていった。自分に合わせる必要はないと言っても、去年まではクリスマスやイベント時に少しずつ飲んでいたのに、それすらしなくなった。こういう機会であれば、瓶ビール一本くらいは飲んでくれる。そう思い、トビアスは彼の手の中にあるビールのラベルに目を凝らす。
 トビアスの学生生活が快適になるよう、レアンドロスは最大限の力を尽くしてくれている。パパラッチが来ると、彼はトビアスを撮らせないように、必ず彼の体で隠し、大学内では一人にならないように、友人達がそばにいてくれる。


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