falling down 番外編3/i | ナノ


falling down番外編3/i

「あせる必要はない。ゆっくり考えたらいい」
 頬を滑った涙を指の腹で拭ってやる。トビアスは足を伸ばし、ソファへ体をあずけた。
「早く卒業して、自立しないと」
 レアンドロスは、トビアスの言葉を聞いて、彼が結婚を意識しているのだと思った。手を取り、手の甲へキスをする。彼は夏でも長袖のシャツを着ている。手首に残っているのは、拘束の痕だった。探せば体中に小さな傷痕がある。
 イレラントへ連れてきてから、三年が経つ。トビアスにとっては怒涛の月日だったはずだ。過去の辛い記憶を取り戻し、新しい環境に慣れるまで、無理をさせた部分もあるだろう。レアンドロスは、瞳を閉じた彼のくちびるを愛撫する。
 ほんの少し開いた口へ、舌を入れた。小さな手を握り、トビアスの口内をまさぐる。たったそれだけのことで、レアンドロスは勃起していた。仕方のないことだった。授業で彼を見かけるようになり、いつの間にか、彼のことを探すようになった。どうして彼のことが気になるのか、最初は分からなかった。
 トビアスを夕食に招待した時、とても緊張した。緊張と同時に、緊張する理由が分かり、去ろうとした彼に失礼なことを聞いた。付き合っている人はいないと聞き、レアンドロスは安堵したことをよく覚えている。
 レアンドロスにとって、この恋は初恋だった。初めての相手であり、それはこれからも変わらない。長い寄宿舎生活の間、もちろん色々な誘いはあった。王族である立場上、過ちを犯さないために、誘いは断り続けた。だが、トビアスだけは特別だった。友人になりたい、と言いながら、いつも彼を汚す想像をして抜いていた。
 トビアスのパンツの中へ手を入れたレアンドロスは、彼のペニスへ触れる。キスの間に漏れる彼の声だけで、いきそうになった。アナルセックスは週一回でいい。だが、互いに触れ合うこの行為は、毎日あって欲しいと思っている。彼に触れていると、心が安らぐ。レアンドロスは、硬くなったペニスを手でしごいた。彼は前をあまり触られたことがないらしく、指先を使い、巧みに快感を与えると、すぐに射精する。
 肩を揺らして息を吐くトビアスの額に、うっすら汗が見えた。その額の汗も拭ってやり、頬や額にキスを仕掛ける。トビアスは小さく声を立てて笑った。毎日一緒にいれば、彼が少しずつ無理を重ねていく姿にも容易に気づく。彼の話を聞く準備はできている。ただ、それを言葉にして伝えることが難しいのは、レアンドロス自身もよく分かっていた。
 抱き締めると、トビアスが足の間へ手を伸ばす。同じようにペニスを擦ってくれた。
「シャワー、浴びるか」
 立ち上がったトビアスの脇へ手を入れて、抱え上げる。聞いたことはないが、彼は親が子どもにするようなこの抱き方を好んでいると思う。こうして抱き上げると、彼はいつも嬉しそうに首へ手を回してくれた。

 夏季休暇の間も大学では様々なコースが用意されている。別荘から戻った二日後、トビアスは申し込んでいた数学のサマーコースへ参加していた。大学でもほとんど一緒に行動しているが、ジョシュアやほかの友人達からも離れ、トビアス一人になることはある。
 レアンドロスはトビアスと同じコースへ参加するつもりだった。ただし、数学だけは教授から参加するように言われていた地質学と被る。彼を一人にしたからといって、これまで大学内で何か起きたわけではない。自分はとても心配性らしいが、何か起きてからでは遅いとレアンドロスは思っている。
 コースが終わった後、教授に呼ばれた。窓から外を見ると、いちばん近いカフェのテラス席で友人達と談笑しているトビアスが見えた。彼は不意にこちらを見上げ、レアンドロスへ気づき、手を挙げる。レアドンロスも手を挙げた。
「あぁ、引き止めてすまない。話は以上だ」
 次回に使用する資料の内容を話した教授は、鞄を持って出て行く。レアンドロスも階段へ向かった。一段飛ばしで降りると、「レアンドロス」と呼び止められる。知らない学生がこちらを見てほほ笑んだ。内心、早くトビアスのところへ行きたいが、そういった感情を出すほど、レアンドロスは幼くはない。急いでいる素振りも見せずに、レアンドロスは彼女の用件を聞いた。
 用件は今まで何度か受けたことのある内容だった。トビアスとレアンドロスの仲は、大学内でもほとんどが認識している。好意的に見られているものの、時おり、今、目の前にいる彼女のように、トビアスが一方的に関係を迫っている、あるいは、学生の間だけの関係で、互いに本命ではない、といった勘違いをしている人間もいた。
 レアンドロスが彼女の好意を傷つけないように断ると、彼女はトビアスのことを貶めるような言葉を吐いた。ノースフォレスト校へ入ってからは特に女性と関わることが減った。それでも、異性に対しては何となくいいイメージを持っていただけに、彼女や何かと自分をコントロールしようとする母親の存在を考えると、気が滅入る。自分自身の希望を通すためなら、ほかの誰かを傷つけてもいい思っている様子に、レアンドロスは溜息をついた。
 一回だけでもいいですから、と懇願され、そういう言葉を口にする女性に幻滅していく。レアンドロスはもう一度、丁重に断り、先を急いだ。


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