falling down54/i | ナノ


falling down54/i

 モミの木が乾燥するまでには、と言っていたジョシュアは三週目の土曜日にやって来た。車を駐車する音が聞こえて、トビアスは玄関のほうへ見に行く。彼は大きな荷物を抱えていたため、トビアスはレアンドロスへ外へ出てもいいか尋ねた。レアンドロスはすぐに来て、一緒に外へ出てくれる。
「トビアス! いい子にしていましたか? あ、サンタクロースからプレゼントが届いたみたいですね」
 トビアスの薬指を見て、ジョシュアは笑みをこぼす。
「ジョシュア、ありがとう」
 野菜や果物が入った重い袋を、彼の手から取り上げようとすると、彼は拒んだ。
「どういたしまして。この袋は重いから、私が運びます。車の中にまだ軽いものがあるので、レアンドロス様と一緒に運んでください」
 持って来てくれたものに対する礼ではなかったが、彼は勘違いしたようで、足早に玄関へ荷物を置きに行く。少しうしろにいたレアンドロスは、彼に手を振った後、車の中を見に来た。トビアスの好きなお菓子ばかりが入った袋が一つだけ置いてある。
 レアンドロスが声を立てて笑い、トビアスもつられた。戻ってきたジョシュアが不審そうにこちらを見る。
 だが、すぐに気を取り直したのか、助手席にあった袋から手袋を取り出した。グリーンのグラデーションで編まれた手袋は、ジョシュアの母親からだ。トビアスは手にはめてもらい、感激のあまり、瞳をうるませた。友人の母親が自分のために、手にぴったりの手袋を編んでくれた。手袋をはめて頬へ触れると、やわらかくて温かい。その様子にジョシュアも眼鏡を外し、頬を擦る。
「今度、遊びに来てくださいね」
「電話でお礼を言ってもいい?」
 トビアスはレアンドロスとジョシュアを交互に見た。
「いいですよ。ただ、私の母は残念ながら、イレラント語しか分からないので、私が、あ、え? わっ」
 トビアスがいきなり飛びつくようにして抱き締めたため、ジョシュアはうしろに尻もちをついた。幸い、積雪があり、雪に埋もれただけだが、レアンドロスが引っ張り出すまで埋もれたままだった。
「ごめん」
 雪を払いながら謝ると、ジョシュアは笑って許してくれる。
「大丈夫ですよ。君はケガ、しませんでしたか?」
 もらったばかりの手袋を外され、ジョシュアは丹念にトビアスの手に傷がないかを見た。今度はゆっくりと腕を回す。抱き締められたジョシュアは、困惑してレアンドロスを見た。
「ジョシュア、ありがとう」
 イレラント語で言ったトビアスに、ジョシュアは驚く。
「イレラント語の練習を始めたんですか? さすがトビアスですね。発音も完璧です……レアンドロス様、どうして笑いをこらえていらっしゃるんですか?」
「君が俺を子どもみたいに扱うから」
 トビアスは言葉を続ける。
「でも、記憶をなくしてた間も、変わらず友達でいてくれて、ありがとう」
 ジョシュアの眼鏡が白く曇る。彼は、「戻ったんですね」と小さく言った。それから、トビアスが抱き締めているより、ずっと強い力で抱き返してくれた。レアンドロスとジョシュアだけは、どんな時でも味方でいてくれると思う。
 体が冷えるから、中に入ろう、とレアンドロスに言われて、三人は横並びになり、玄関へ向かった。

 レアンドロスと手をつないで眠る時、トビアスは眠気と戦いながら、彼のことを見つめる。彼もこちらを見ていて、「先に眠って」とよく言われた。彼は、今夜は無言のままだ。だが、目を閉じると、抱き寄せてくれる。
 月一回の定期健診へ行った。大腸肛門科の医師から、裂傷は完治したと言われ、トビアスはそばにいるレアンドロスを一瞬見た後、尋ねた。
「アナルセックスをしても大丈夫ですか?」
 医師は表情を変えなかったが、レアンドロスは慌てた。トビアスは彼の手を握る。
「今の状態であれば、特に問題はないかと思います。ただし、過激な行為は控え、頻度も考えて、ということになります」
 トビアスは医師の言葉を聞いて、安堵した。だが、帰りの車の中で、レアンドロスは少し苛ついていた。
「レア」
 運転中だから仕方ないが、レアンドロスはこちらを見てくれない。いつもならすぐに返事をしてくれるのに、彼は無言のままだった。医師に尋ねたことには、理由がある。年が明けて三ヶ月が経ち、トビアスは自分の体が回復していると考えた。
 以前は何度か、排便の際に痛みがあったが、今はそういったこともなくなった。性病検査もすべて陰性だ。性行為に対しての恐怖心は消えていないが、抱き締められ、キスを受け、じゃれあった後、トイレへ消えるレアンドロスを見送ることは、心をちぎられるような痛みだった。


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