on your mark番外編12/i | ナノ


on your mark番外編12/i

「偏見なんて持ってない。パパ達が愛し合ってるのは分かるし、いいことだと思うし……」
「じゃあ、何であんな言い方したんだ?」
 敦士の言葉を受けて、史人は息を吐いた。
「中学一年の時、三年の先輩から告白された。男の先輩」
 初耳だった敦士はこちらへ身を寄せて、「誰?」と聞いてくる。
「誰だっていいよ、もう、断ったんだから。で、その時、遼パパみたいになりたいのに、パパみたいに見られてるのかなって思ったら、何て言うか、嫌だった。偏見はないよ。ただ、家で、遼パパに甘えてるパパを見て」
「ちょっと待て。甘えてるって、おまえ、二人の部屋にでも入ったのか?」
「え? 入ってないけど、でも、パパがさ、キッチンボードの上にあるもの、取ろうとして届かない時に、遼パパが取って、見つめ合ったりとか、テレビ見てる時に手、つないで、同じシーンで笑って、ほほ笑んだりとか、そういうの、嫌悪感じゃないけど、何て言うか」
 敦士の呆れ顔に、史人は言葉の途中で首を傾げる。
「あや、直パパが羨ましくて嫉妬したんだな」
「え、違うよ、嫉妬なんて」
 嫉妬のはずがない。遼は好きだが、あくまで家族としての愛だ。
「その先輩、遼パパみたいに、頼りになりそうな奴だったんだろ」
 そうだったと思うが、史人は、「どうだったかな?」とあいまいに返した。敦士に言われなくても、気づいた。史人は遼のような同性へ憧れを持っている。その先輩への感情は別として、告白された時、嬉しいと思った。
 同性にも魅かれた自分への戒めなのか、嫌悪なのか分からないが、史人はその感情を直広へ向けることで発散させた。周囲から容姿のことを言われ、そのたびに否定してきたことがある。女の子に見えるかもしれないが、自分は男であり、繊細でもなければ、手の込んだものも作れない。そして、同性には魅かれないという点だ。
 最後の点は特に自分へも言い聞かせてきた。だが、家に帰れば、史人が否定したいこと全部を肯定する存在として直広がいた。
「おまえの気持ち、すべて理解できたとは言えないけど、おまえはおまえの言葉でちゃんと話せよ。昔は何でも話してただろ?」
「……うん」
「直パパ、すごい泣いてた。遼パパよりずっと強いのに」
 独白するように続いた言葉に、史人は敦士を見つめる。
「逆に考えたことないか? 遼パパにだって支えたり、頼ったりする相手がいる。でも、俺達に甘えるはずがない」
 史人は頷いた。直広は家で帰りを待っている。好きな人が特殊な職業に就いていなくても、毎日、疲れて帰ってくる彼が休息できる場所を作りたいと思うのは当然だ。弁当だって、お菓子だって、直広はいつも遼だけではなく、史人達のことも考えて用意してくれる。

 少しの間、泣いていた史人は、ベンチから立ち上がる。
「パパに謝る」
 敦士とともにマンションへ戻った。土曜だったが、夜まで事務所だと言っていた遼の革靴を玄関に発見して、暗い気持ちになった。
「怖い」
 敦士へそう言って、彼の体を先に押した。
「史人」
 ソファに座っていたのは、遼だけだった。怒りに色がついていれば、目に見えるのではないかというくらい、不機嫌だ。
「敦士は部屋へ行きなさい」
 史人は思わず、敦士の手を握った。
「口は挟まないから、ここにいる」
 遼の向かいへ座った敦士に手を引かれ、そのまま史人も座った。いつも優しい遼の瞳が険しい。史人は泣きながら、「ごめんなさい」と謝った。
「謝る相手が違う」
 立ち上がろうとすると、「直広は寝てる」と言われた。
「直広に何て言ったんだ?」
 怒気をはらんだ声に、史人は小さく返した。
「心にもない、こと、言って、俺……」


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