on your mark番外編11/i | ナノ


on your mark番外編11/i

「どうした? あや、直パパ?」
 キッチンへ来る敦士と入れ違いに、史人はリビングダイニングへ出る。
「直パパ?」
 敦士はしゃがんで、直広の肩を抱き、彼を立たせる。ソファへ座らせた敦士は、何も言わずに泣き続ける直広へ視線を落とした。
「史人」
 名前を呼んでこちらを見た敦士は、「何を言ったんだ?」と視線で尋ねてくる。敦士はおそらく遼以上に、この数年、直広への態度が変わったことを知っている。直広を邪険に扱うな、もう少し優しく接しろ、と注意もされた。
 今までそういうふうに思ったことはないが、直広の肩を抱き、なだめている敦士と、彼の手を握る直広を見て、また苛々が募るのを感じた。
「よかったね、もう一人、息子がいて。あーくんとか遼パパみたいな男に頼るの、得意だもんね」
「史人!」
 敦士とはもちろんケンカをすることはある。だが、怒鳴られたのは初めてだった。史人は、「待って」と言った直広を無視して、家を出ていく。どうせ一人で出ていっても、行き先を言わなくても、護衛がついて来る。
 外へ出て、近くの公園まで歩いた。胸に溜め込んでいたことを言って、すっきりしているはずなのに、苛々の代わりにもやもやとした思いが残る。公園の出入口に立っている敦士を見て、史人は視線をそらした。
 追いかけてくる必要などない。直広のそばにいればいいのに、きっと直広が追いかけるように言ったのだろう。ベンチの隣へ座った敦士は、大きな溜息をついた。
「何、言ったんだ?」
「関係ない」
 史人はそっぽを向いた。敦士が右足で地面を強く蹴る。
「……デートは?」
「別れ話だった」
 敦士は勝手に史人のジーンズポケットから財布を引っ張り出す。中にあるカフェのレシートを見て、苦笑した。
「ランチプレートとデザートが三つ。一人で三千八百円も食ったのか?」
「パフェとケーキがおいしい店だから」
 まだそっぽを向いていたら、敦士が額を軽く叩いた。
「何?」
「悪いと思ってるんなら、早めに謝れ」
「思ってない。俺はただ」
「じゃあ、何で泣いてるんだ。後悔してるだろ?」
 史人は涙を拭う。自分は悪くない。直広が煩わしいから、言いたいことを言っただけだ。
「頑固だな。遼パパは直パパの味方だろうから、俺はおまえの味方になろうか?」
 苦笑する敦士に、史人は言い返す。
「いい。あーくんだってパパの味方のくせに。今日、林んち泊まらせてもらう。きっと遼パパに殴られるから」
「ダメだ。問題は避けても解決しないぞ。それに、遼パパは殴らない」
 敦士の言う通りだ。遼は絶対に手を上げたりしない。
「でも、怒られる」
「何だ、悪いことした自覚はあるんだ。じゃあ、謝れ」
 後頭部の髪をぐしゃぐしゃにされる。史人は敦士の手を払った。
「……パパみたいになるのが嫌だ」
 おぼろげに感じていることを話すと、敦士が頷いて、続きを促す。
「俺は遼パパみたいな大人になりたい。パパは、好きだけど、何て言うか……」
 何でも話している敦士にも、言っていないことがある。直広のことを避けるようになったのは、中学へ上がってからだ。きっかけになったある出来事を話すかどうか迷った。敦士は家ではよく笑うし、優しいが、学校では違う。クールと言われているように、史人の友達にもどこかよそよそしい。必要以上に親しくならない。
「あの二人に違和感があるのか?」
 史人は慌てて首を横に振った。


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