on your mark番外編4/i | ナノ


on your mark番外編4/i

 敦士を連れてきたのは、直広のためだった。史人が幼稚園へ行き始めてから、直広はぼんやりしていることが多いと聞き、世話が必要なものを用意するべきだと考えた。最初はイヌかネコを飼おうとしていた。
 どちらかに決める前に、薬物へ手を出し、破門にしていた柏木が敦士を連れて現れた。高岡と敦士は環境や状況はまったく異なっていたが、高岡自身、敵対していた市村組に受け入れてもらった経緯もあり、敦士に縁を感じたのは確かだ。それに、薬物中毒の両親から見放されようとしている彼を放っておけなかった。
 ちょうど史人は赤ん坊が欲しいと言い、弟を亡くした直広も、史人に新しい弟ができることを喜ぶのではないかと思った。
 敦士を連れてきた当初は、直広も心を開いてもらうのに苦労したようだ。直広のため、と思って連れてきたが、高岡はパッチワークのようにつながっていくこの絆を大切にしている。
 柏木と交わした契約は、彼が更正施設にいる間はこちらで敦士の面倒を見るというものだった。敦士が会いにいきたいと言えば、月一回は面会できたが、彼は実父に会いたいと言わなかった。
 息子のためにも、組へ恩返しするためにも頑張るといっていた柏木は、一年目で施設を逃げ出し、それ以降、消息がつかめない。本格的に動けば、分かるかもしれないが、高岡はあまり乗り気ではなかった。
 まだ八歳の敦士に本当のことは話せない。いずれ時が来たら、柏木のことは隠さずに話そうと思っている。
「史人は寝てるのか?」
「あやはゲームしてたから。昨日の夜」
 敦士の言葉に高岡は納得する。金曜の夜は宿題をしたら、ゲームをしていいことになっている。ルールを決めているのは直広だが、何度か約束を破って怒られている史人を目撃してからは、高岡もルールを覚えた。
 週末の朝は早起きする必要もないため、直広も夜更かしについては咎めていない。
「史人は眠たいから行かないって言ってるので、俺達だけで行きますね」
 高岡は頷き、朝食を食べ始める。
「何か欲しいものはありますか?」
「いや、特にはない。何かしておくことはあるか?」
 上着を羽織った直広に尋ねると、彼は横から首のあたりへ腕を回してくる。こめかみへキスをした後、「何もないです。ゆっくりしててください。お昼は冷蔵庫に用意してます」と笑った。最後にしたのは、水曜だった。今すぐベッドへ連れていきたいが、新しい服を買いにいく敦士から恨まれたくないため、高岡は苦いコーヒーを飲んで欲望をごまかす。

 高岡はソファに寝転び、仕事用のノートパソコンを開いた。届いていたメールを適当に読み、返信を打っていく。市村組としては、香港ヘイバンとのつながりを強固にしたいと考えていないようだが、高岡は日本国籍を選び、こちらを拠点にしていても、あちらのボスとの関係を絶つことはできない。
 無論、絶ちたいとも考えてはいない。薬物の取引はしていないものの、マネーロンダリングには互いに協力していた。携帯電話の電子音に視線をやり、直広達の位置を確認する。三十分ごとに、位置情報を知らせるように設定していた。護衛達からも定期的に連絡が入る。
「遼パパ? おはよー」
 史人の声に、高岡は上半身を起こし、パソコンをローテーブルへ置いた。まだ眠そうな史人は下着一枚の姿で突っ立っている。
「おはよう。服はどうしたんだ?」
 隣へ座った史人の寝癖を触り、苦笑しながら尋ねる。
「服? 着るよ、今から」
 部屋へ戻る彼のうしろ姿を見て、確かに敦士のほうが大きいと感じた。高岡はキッチンの冷蔵庫を開けて、昼食を確認する。オムライスが二皿、レンジで温めるだけの状態になって入っている。ツナサラダも二つの鉢に分けられていた。
 子ども部屋にした洋室の扉をノックする。
「史人、昼はオムライスだ。もう食べるか?」
「うん!」
 扉が開き、着替え終わった史人が出てくる。いくら室内が暖かいとはいえ、彼は半袖のシャツにハーフパンツという格好だった。
「おまえ、寒くないのか?」
「全然。ねぇ、あーくん達、買い物?」
 頷くと、史人は少しむっとした。


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