on your mark番外編3/i | ナノ


on your mark番外編3/i

 陵辱された母親も、直広と同じことを言っていた。高岡はテープを巻き戻し、もう一度最初から再生する。新崎の問いかけに、直広は頷いている。女ともしたことがないのか、と聞かれて、彼は頷いているが、それが事実なら、史人は彼の子どもではない。それでも、息子に手を出すな、と言う彼の姿に、高岡は視線をそらせなくなった。
 高岡は直広達が不自由しないように援助してやれ、と宮田へ命じた。直広と史人の関係や、高額すぎる健史の借金の詳細については自分で調べた。
 マル暴が動いたことで、直広と会ったが、そのことがなくても、遅かれ早かれ会っていたただろう。史人を第一に考え、彼を守ろうとする直広は健気で、自分の目の届くところへ置いておきたいと思った。
 一弥が動なら、直広は静だった。前へ向かっていく強さを持っている一弥に魅かれるが、苦しみや悲しみを静かに受け入れ、強くあろうとする直広が気になった。自分は彼を抱くだろうと、初めて会った日に確信した。
 高岡も両親の遺体を目にすることすら叶わなかった。直広が、「どこの海であっても、つながってる」と言って、弟の死を受け入れようとしているのを見て、高岡は自分自身もまだ両親の死を引きずっているのだと感じた。
 復讐は終わったのに、埋まらないものは何なのか、高岡はずっと考えていた。そのこたえを示してくれたのは、直広だ。
 直広の苦痛になっている原因を消したいと思っていた。だが、彼はそれを望まなかった。彼の選んだ選択は間違いではなく、史人を守るためなら同じ選択をすると言いきった。それは高岡が両親から聞きたかった言葉だった。
 復讐をしても、高岡の中に辛い記憶は残ったままだった。忘れられるのは一時だけで、その原因を消しても、まだ囚われている。直広が、「乗り越えたい」と言った時、高岡は両親から、「もういいんだ」と言われた気がした。

 仁和会という組織の上に立ち、その社会の中で生きていく上で、まっとうなことしかしないという約束はできない。直広に嘘をつくこともある。言えないほど非道なことをしなければいけないこともある。
 直広が史人のために、嘘を事実にしているように、高岡も真実は言わない。
 史人の母親は留学していなかった。生活費に困り、直広から金を借りていた時期もあったようだが、史人を生んだ後も借金がかさみ、彼女はさくらローンと契約をしていた。
 彼女とその母親の借金は膨れ上がり、支払いに困った彼女は風俗店で働くようになった。偶然かどうかは分からないが、彼女が直広へ助けを求める前に、健史が彼女に気づき、兄へ相談するなと言っていたらしい。
 楼黎会の新崎は健史ではなく、直広のほうが稼げると踏んでいた。直広は三十手前だったが、どちらかと言えば童顔で、可愛らしい顔だちをしていたからだ。彼女は健史が殺される数日前に、母親とともに消息を絶っていた。おそらく新崎が消したのだろう。
 健史は時おり、直広や史人へ暴力を振るっていた。それでも、彼は兄を助けようとしていた。このことを直広へ話せば、直広は今まで以上に自分を責めるに違いない。高岡は直広が苦しむ姿を見たくなかった。
 五年ほど経った今でも、直広は悪夢にうなされていることがある。高岡の帰りが早い時は隣にいられるが、香港へ出張中の時には酒量が増えていると藤野が教えてくれた。肝臓の一部を摘出している直広は、肝機能じたいが人より劣っているため、あまり飲ませてはいけないと交友のある医師から注意を受けていた。
 柔らかな髪をなでる手をとめ、高岡は直広の額へキスをする。とりあえず、今月中は香港へ行くこともなければ、深夜帰宅になることもない。高岡は彼をたっぷり甘やかしたいと思いながら、目を閉じた。

 土曜の朝は九時頃には起きている。直広は日曜以外、六時に起きるため、高岡はベッドに一人だった。扉を開けると、直広と敦士がインターネットで調べ物をしていた。
「おはよう」
 高岡は敦士の頭をなで、直広の頬へ軽くキスをした。あいさつを背中へ受けながら、トイレへ行き、洗面所で顔を洗う。着替えをして、テーブルへ着く頃には、直広が朝食を並べてくれていた。
「買い物?」
 敦士の視線の先には子ども服のブランド名が並んでいる。直広はコーヒーを運び終え、隣の椅子へ座った。
「あーくん、身長がまた伸びたんだよね。もうあやの服だと窮屈そうで、新しい服、買い足そうかって昨日、話してたんです」
 敦士は幼稚園の時こそ、いちばん小さかったが、小学校へ上がってからは急速に成長していた。
「クラスでいちばん大きいよ」
 高岡はコーヒーカップを置き、敦士の言葉にほほ笑む。


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