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「確かに、おまえが関わることは望んでいない。おまえが、というより、おまえ達が、だが」
 予測通りの言葉に、直広は身を強張らせた。動揺を悟られないように、赤ワインを飲む。
「……俺もまだまだだな」
 高岡は独白して、空になっている直広のグラスへワインを注いだ。直広は史人の卒園までの費用だけでも、と相談を持ちかけるために、注がれたワインを飲んでいく。
「関わる関わらない、は置いておいて、おまえ、もう一人、子どもを育てる気はあるか?」
 熱くなっている頬へ手を当てて、直広は首を傾げる。高岡の言葉が理解できない。
「下っ端の男なんだが、女が子どもを押しつけて消えたらしい。柏木は他の連中と暮らしてて、小さい子を見る余裕はない。どうだ?」
 高岡は直広の手からグラスを取り、テーブルの上へ置く。
「施設へ預ける話もあったんだが、史人のこと、思い出してな。あいつ、赤ん坊が欲しいって言ってただろ?」
 ワインのせいで多少、判断力は鈍っているものの、直広は高岡の話にすぐにこたえられない。物ではなく人の人生が関わっている。その子にとって何が最善かを考えてから出すべき結論だった。だが、考えようとすると、高岡の瞳やくちびるへ吸い寄せられる。
「欲しいか?」
 直広は何を欲しいか、と聞いているのか確認する前に、「欲しい」と言った。高岡が艶のある笑みを見せる。
「おまえの誘い方、最高だな」
 力強く引き寄せられて、直広はそのまま押し倒された。流されてはいけない、と思いながら流されていくのは、とてつもなく心地いい。高岡の愛撫を受けながら、直広は自分を納得させていく。
 史人に弟か妹が必要だから。高岡がそうすることを望んでいるから。その子がまた自分達の関係を結びつけていくかもしれない。キスの雨を受け、ペニスを愛撫され、直広は声を漏らす。気に入られようとして、主体性を失っている。自分の醜さが嫌になる。
「っあ、ぁあ……ッン、あ」
 室内は快適な温度に保たれていたが、直広は汗ばんでいた。酔いもあり、もうこのまま何も考えずに、快感だけを感じていたいと思う。直広には高岡のように激しい愛を注ぐことはできないが、その愛を受けとめることはできた。こういう場面でも受身で主体性のない自分を嘲笑する。
 だが、誰もそのことを責めない。少なくとも高岡の腕の中で抱かれている限り、瑣末なことは考えなくて済んだ。貫かれている場所から濡れた音が響く。そこは潤滑ジェルと直広自身の精液で濡れていた。一度目の吐精の後、高岡が体を抱える。
 マスターベッドルームで直広はさらに二度、高岡の熱を受けとめた。直広は行為の最中も、その後も彼の瞳を見ていることが多い。気づかなかったが、彼の脇腹には傷痕が残っていた。左腕にも痕が見える。
 傷痕のことを尋ねようと思いながら、直広はしだいにまぶたを閉じていく。今まで何度も体を重ねたのに、高岡のうしろ姿を見たのは初めてだった。うす暗い間接照明の中で浮かび上がる背中には、こちらを睨みつけている龍がいる。
 どこからともなく史人の声が聞こえた。直広は笑みを浮かべて、「王子様、ドラゴン、倒したんだね」と言った。史人が、「そうだよ」とこたえた。
 高岡が笑い声をこらえて、直広の額をなでた。
「何だ、もう夢を見てるのか?」
 直広には誰の手か分からなかった。ただ離れていって欲しくないと思い、彼の体へ抱きついた。

 翌日、昼頃に起きた直広がリビングダイニングへ出ていくと、 高岡が史人と昼食を取っていた。
「あ、すみません」
「いいから。おまえはシャワー、浴びてこい」
「パパ、おはよう」
 直広はあいさつを返し、バスルームへ向かう。ほんの少し頭痛があった。断片的に昨日のことを思い出しながら、体だけ洗う。


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