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 高岡は一言も話さなかった。くちづけを繰り返しながら、彼の手がシャツのボタンを外し、徐々に下半身へと移動していく。彼は直広のペニスが少したち上がっているのを確認して、直広のことを抱えた。マスターベッドルームの扉を開け、ベッドへ下ろされる。
 室内は窓から入ってくる月明かりで照らされていた。照明をつけようとした高岡に、「電気、つけないで」と小さな声で訴える。彼は直広が仰向けになっているベッドへ上がり、彼自身の服を脱ぎ始めた。
 目が慣れると、高岡の表情が見えてくる。彼は真剣な面持ちで、直広の服を取り、乳首をなめた。くすぐったい吐息がうなじへと続く。ナイトチェストの引き出しが閉まる音が聞こえた。
 高岡が潤滑ジェルのキャップを開けている姿を見て、直広はうつ伏せになった。今までは自分で準備していた。彼の手が臀部をなでていく。あそこでは致命傷になるほどのことでなければ、何でも許された。いちばん嫌だったのは電気で責められることだったが、それ以外の方法で楽しむ客もいた。
 高岡の指先が臀部にある火傷の痕をなぞる。直広は枕に顔を押しつけた。思い出したくない。直広は泣いていたが、声は漏らさなかった。彼の指がゆっくりとアナルへ入り、中を慣らして広げていく。
 高岡のペニスが直広の中を押し広げてきた時、痛みはなかった。ただ圧迫感に呼吸が乱れた。枕の下で握っていた拳に、彼の手が重なる。彼は直広の耳朶をなめ、うなじへキスをしながら腰を動かした。空いている手で直広のペニスへも触れてくる。
 彼は激しく動いているが、今までの誰よりも優しかった。直広がいきそうになると、ペニスから手を離し、うなじや背中をくちびるでくすぐられた。声を抑えていた直広は、何度も繰り返されるうちに、自ら腰を動かし、甘い声を出した。いきたい、という言葉が無意識で出る。手を握っていた彼は、両手で直広の腰をつかみ、腰を浅く深く打ちつけた。
「あ、あぁ、ンっ、ああ」
 完全にアルコールが回っていた直広は、高岡が深く突くたびに刺激される部分と、引いた時に擦られる部分に翻弄された。彼は直広のペニスにもコンドームをつけていた。射精した直広のペニスの先端へ、彼の手が触れる。ちょうど亀頭部分を自分の精液で擦られる感覚に、射精後の体が震えた。
 高岡は直広の前をいじりながら、徐々に激しく突いてくる。亀頭を擦られてひときわ大きな声を出した後、彼の動きが止まった。直広は全力疾走した後のように、呼吸を乱し、枕へ顔を埋める。
 これまでは無理やり射精させられるか、射精できないようにされるかのどちらかだった。射精した後の余韻にひたることもできなかった。高岡はコンドームを外し、部屋から出ていく。シャワーを浴びにいったのだと思っていると、彼はワイングラスを手に戻ってきた。一口飲み、直広のことを仰向けにする。
 口元へ差し出された赤ワインを、直広も一口だけ飲んだ。まだ呼吸は整うことなく、少し汗をかいていた。高岡はワイングラスをナイトチェストの上に置き、直広のくちびるを奪う。
 まるで恋人にするようだった。くちびるからまぶた、額へとキスをして、その間も彼の手は優しく胸や脇腹を滑り、最後に指へ絡んだ。あまり性欲のない直広には一回で十分だが、高岡はまたたち上がった性器へコンドームをつける。彼は直広のペニスからコンドームを取り、勃起していないペニスへ触れた。
 右手を握ったまま、彼の愛撫を受け、直広のペニスは少しずつ熱を帯びていく。正常位でつながると、先ほどは見えなかった彼の表情が見えた。彼はそれほどひどいことはしないだろうと思った自分が情けなくなる。
 直広をいたぶって楽しんでいた男達の瞳とはまったく違う。にじむ視界の中で、直広は高岡の瞳にある慈愛に気づいた。彼がどんな愛し方をする人間か知らない。だが、彼はこの瞬間だけは直広を本気で抱いていた。
 額にキスを受けた時の胸の締めつけが、今も胸へ迫ってくる。つながった手を握ると、高岡は握り返してきた。

「直広はもう大きいんだから」
 母親の言葉に直広は頷いた。
「直広はもうお兄ちゃんなんだから」
「直広は長男だから」
 我慢してね、と続く母親の声に、直広はいつだって頷いた。甘えたいという衝動を抑えて、自分以外の誰かのために歯を食いしばった。
 汗ばんだ高岡の胸に抱き寄せられる。史人のためだという気持ちと、今だけは彼のことを独占できるという欲が、直広の心を支配する。
「シャワー、いけそうか?」
 高岡の声が聞こえた気がした。直広は右耳の奥で響いている鼓動と彼の体温をもっと感じたいと思い、左手を彼の体へ回した。小さな笑い声が聞こえる。今夜はトイレへ駆け込んで吐かずに済みそうだと思った。


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