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 失礼します、と断りを入れて、直広が座る。宮田は直広が座ってから、簡単な報告を始めた。彼は今日のことを話していたが、最後に、直広がここへ来てから話していたことを告げる。
「マル暴? 誰?」
 高岡は面倒そうな表情になる。宮田は優から刑事達の名前を聞いていたらしく、二つの名前を並べた。高岡はボールペンを持ち、左手の手のひらでキャップの部分を押す。カチカチ、と何度か音が響いた。
「弟のこと、何て聞かれた?」
 直広は唐突に聞かれて、思わず身を硬くする。
「え、あ、あの、弟の行方を知らないかって聞かれました。それで、でも、たぶん、玄関に血痕があったから、俺が、こ、殺したって、大家さんが、兄弟仲、悪かった、とか」
 高岡はボールペンをもてあそぶのをやめた。自分の話が支離滅裂だから、怒りを買ったのだと思ったが、彼は何も言わずに宮田へ話を投げた。
「あいつら、一課とでも組んでるのか?」
「いや、一課の連中は動いてませんよ。殺人と断定できる要素がないですから」
「なら、純粋にこっちがメインか……彼、引っ張って、俺達のこととついでに自白でも取れたら、一課に恩も売れてラッキーくらいに思ってんのか」
「まぁ、たぶん、そんなところでしょう」
 宮田が頷く。直広には分からなかったが、今は話の邪魔をしないほうがいいと思い、史人の毛布をかけ直す。
 高岡はスーツの胸ポケットから携帯電話を取り出した。マナーモードにしていたようで、携帯電話が着信を告げる光を発している。
「高岡です。お疲れさまです」
 直広はあまりじろじろと見てはいけないと思いながらも、高岡のことを観察した。彼がやくざの組織のトップだなんて信じがたいことだ。髪は少し茶味があり、瞳の色も同じ色をしている。一見すると、やわらかい印象を持てるが、視線は鋭く、眉間に寄るしわが彼の難しい性格や気質を表している。電話の相手とは気心の知れた仲らしく、時おり、笑みを浮かべていた。
「そうですか? 慈善事業みたいなものです。いや、一弥さんに影響されたのかもしれません。最近、見かけないですけど、あぁ、そうなんですか。はい、分かりました。あ、それは、聞いています、はい、大丈夫です。ええ、ちょうど、今、来てます」
 直広は高岡と視線が合い、そのまま彼を見つめた。彼も話しながら、ずっとこちらを見ている。
「では、また何かあれば連絡します。はい、失礼します」
 高岡は電話を終えると、そのままデスクの上に携帯電話を置いた。
「深田直広さん」
「はい!」
 思わず、史人のように返事をした。直広は大きな声で返したことに赤面する。だが、高岡は気にしていないようで、「金のことだが」と切り出した。
「優から渡しておいてもらった分は、返す必要はない。ケガをしていたと聞いたから、医者を手配させたが、体調はもう大丈夫なのか?」
 直広は、「はい」とこたえた後、礼を言った。
「仁和会の皆さんには、本当に感謝しています。ありがとうございます」
 立ち上がって、大きく深く頭を下げた。ゆっくりと顔を上げると、高岡はまだこちらを見ている。きれいな人だと思った。気に入ったものを何度も見るように、彼のことも見てしまう。
「まだ、感謝するには早いだろ。マル暴に目をつけられてる。宮田、どこか空いてる物件、なかったか? セキュリティシステムの高いところがいい」
 宮田は少し考えた後、「北町のマンションなら空いてます」とこたえた。
「今夜すぐに使えるところがいい。北町は電気、ガス、水道、すべて連絡しないと、あぁ、そうだ」
 高岡は腕を組んだ。
「緑沢のマンションが空いてるだろ」
「神経を疑います」
 高岡の言葉に宮田が返事をする。
「確かに空いてますし、すぐに生活できる状態ですけど、前入居者のものがいくつか残ってます」
「今から誰か行かせて、処分させろ」
 直広は二人が自分達の泊まる部屋のことを話しているのだと分かり、慌てて話に参加した。


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