on your mark24/i | ナノ


on your mark24/i

 警察かもしれない、と思うと、直広の体は休もうとした。意識がしだいに遠のいていく。史人も胸の上に頬を当てて、眠っていた。保護されたのだ、と都合のいいように考え、直広は目を閉じる。
「すみません」
 運転手の声で起こされた。
「俺、一人じゃ無理なんで、自力で」
 彼はドアを開けて、手を貸してくれるが、直広よりも少し背が小さい。直広は史人を抱え、彼のあとについて行く。
「エレベーター、ないんですよ」
 彼はそう言って、また手を貸してくれる。いちばん奥の扉の前で、ポケットから鍵を取り出し、中へ入るよう促された。
「あ、すみません、絵本、車の中に置いたままかも……」
 直広はまだ眠っている史人の体を抱え直す。立っていることが辛かったが、踏ん張っていると、彼は、「中、入ってすぐリビングなんで、座っててください。俺、絵本、取ってきます」と言って、扉を閉めた。
 誰かの部屋であることは、玄関を見ればすぐに分かった。警察ではないのかもしれない。そう思ったが、今、助けを求めて動き回ることはできない。それに、彼らは直広達を地下から出してくれた。
 直広はリビングの絨毯の上ではなく、床のほうへ腰を下ろした。アナルから出血しているかもしれないからだ。壁に背をあずけて、目を閉じると、またすぐに眠気が襲ってくる。
「絵本、ここに置きます」
 運転手の男はテーブルの上に絵本を置いた。
「あ、すみません。ありがとうございます」
 直広は姿勢を正そうとしたが、うまくいかなかった。壁にあずけた体はだるく、熱が上昇していくのを感じる。彼は携帯電話を耳に当てながら、冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出す。
「俺です、お疲れさまです。はい……はい、そうですね……」
 彼はこちらを一瞥した後、「はい、辛そうです」と言った。グラスに注いだミネラルウォーターが、直広の前に差し出される。
「ありがとうございます」
「いえ。あ、いえ、違います。はい、分かりました。失礼します」
 電話を切り終わった彼は、直広に奥の部屋へ続く扉を開けて見せた。
「奥にもう一部屋あります。布団、敷くんで、そこで横になっててください。優さん、すぐ戻ってくるって言ってるんで」
 直広は恐縮しながらも、「優さんって、黒髪の人ですか?」と尋ねた。彼はリモコンを操作して暖房を入れる。
「そうです。ここ、優さんちなんです」
「え、っと、優さん達は……警察の人、ですよね?」
 混乱しながらも尋ねると、彼は目を丸くした。
「えー、いや、警察……じゃないんですけど、あー、優さんのほうがそういう説明うまいんで、あとで聞いてください」
 彼は逃げるように奥の部屋へ行き、布団を敷いてから、「冷蔵庫の中のもの、勝手に食べても怒られないんで、お腹、減ってたらどうぞ。それじゃ」と玄関のほうへ向かった。
 直広は史人を絨毯の上に寝かせて、壁づたいに立ち上がる。ここが優の部屋だというのは間違いなさそうだ。テレビの上には写真立てが並び、優とその友達が写っている。ベランダには直広が着ているパーカーの色違いが干されていた。
 助けを呼びに行けるかも、と玄関のほうへ歩こうとして、直広はその場に倒れ込んだ。頬に当たる床が気持ちいい。目を閉じると、そのまま意識が落ちた。

「あーあー、何でこんなところで」
 直広は体が浮き上がるのを感じて、うっすら目を開けた。優に抱き上げられ、奥の部屋に敷かれた布団の上に移動している。
「何だったっけ、名前。ほら、こっち来い」
 優はおそらく史人に話しかけている。直広は起きて、聞きたいことを聞かなければと思った。だが、体は少しも動いてくれない。
「おなか、すいた」
 史人の声が聞こえる。頭上で優の動く気配があり、彼は笑い声を漏らした。


23 25

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -