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 直広は史人の声で目を覚ました。食事は一日二食だけだ。コンビニのパンやおにぎり、二回目は弁当がもらえる。史人にシャワーを浴びさせ、体を洗い、二人で毛布の上に座った。袋の中にはパンが三つ入っている。直広に二つの計算だろうが、直広は一つしか食べない。残りは史人のおやつとして残しておく。
「パパ、かえる?」
 ここへ来て一週間ほどが経ち、史人は泣き出すことが多くなった。だが、トイレトレーニングはうまくいき、史人は一人でもトイレへ行けるようになった。もちろん、一人で便座には座れないため、直広がいない間はシャワールームでするように言い聞かせた。
 薄汚れている衣服や殺風景な中を見て、直広は生活必需品を買いに行けないか、頼んでみようと思った。
「あや、ごめんね。外に出たいだろう? もう少し我慢して」
 史人はクリームパンのクリームを頬につけながら、こちらを見つめる。
「おうち……たけは?」
 新崎が健史や家をどうしたのか分からない。ここへ来た最初の日以降、直広は新崎と会っていなかった。
「健史は、お空に行った」
「おそら?」
「うん」
 史人がひざの上に座る。
「パパ、いたい?」
 直広は涙を拭った。
「痛くないよ。大丈夫」
 史人の頬についているクリームを拭い、彼のことを抱き締める。顔を殴ることはなかった新崎だが、それは自分が商品だからだと二日目に知った。そして、客は直広が気に入らなければ、あるいは楽しむためなら、致命傷になること以外は何をしてもよかった。
 新崎を含む組織の男達に、気を失うまで犯された直広だったが、それが優しいほうだと分かったのは、二日目以降だった。史人が直広の手首や腕にあるあざへ触れる。背中を見ることはできないが、背中には鞭でできた傷がみみず腫れのようになっている。
 頬を殴られた傷は二、三日前のものだ。ペニスとアナルにも傷があった。時間が来ると、男達が迎えにくるが、史人に行かないで、と言われたら、自分も彼にすがって行きたくない、と言いそうになる。一日二十万を稼ぐためには、直広に五万円を出してもいいという客を四人、探さなければならない。だが、一晩で四人もの人間を満足させられるはずもなく、直広の年齢と外見に五万円も出す客もいない。
 直広は新崎の言う通り、体に負担のかかるプレイや嗜虐性に富んだプレイをしたがる客の相手をしていた。プレイの内容によっては、たった一人の相手をするだけで二十万円を稼げる日もある。
 仕事までの時間、直広は史人を抱いて横になった。眠っても眠っても、体がだるい。

 一回目の食事はおそらく十二時頃に差し入れされ、二回目の食事は十八時頃に持って来る。直広を迎えにくるのは、店へ着く時間から逆算すると、二十一時頃だ。
 運転手の男は別にいて、直広を連れ出すのはスーツを着ている男だった。靴音ですぐに彼が来たと分かる。史人がぐずり、泣いても、彼は淡々と格子の鍵を開けて、直広を外へ出した。
「あ、あの……」
 直広が階段を上がってから声をかけると、男は振り返った。
「新崎さん、いますか?」
「何だ?」
 苛ついた声を出され、直広は一瞬ためらう。だが、新崎と交渉して、史人のために日用品やおもちゃを買ってやりたかった。
「史人に服とか、買ってやりたくて、その、仕事とは別に、何かすれば、一万くらい稼げないですか? ほんの少しでいいので、あの子にも外の空気を吸わせてやりたいし……」
 男は直広の言葉を最後まで聞くことなく、何も言わずに歩き出す。いつも通り、事務所前に停車している車へ押し込まれた。
「あの」
「うるせぇ。伝えておくから黙れ」
 直広は軽く頭を下げた。これ以上言えば、殴られるからだ。楼黎会の男達はフィルム撮影だと称して、三階の防音室で直広のことを痛めつけることがある。史人の前でないだけましだと思い、直広はそのいわれのない暴行にも耐えていた。
 表向きは普通のクラブの裏口から、男とともに中へと入る。ただでさえ狭い裏口には、屈強な男が監視役として立っていた。


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