on your mark番外編39 | ナノ





on your mark番外編39

 眠ってしまった史人を起こすのはかわいそうで、敦士は一人でリビングダイニングにいる直広と遼のところへ顔を出した。
「あやは寝てるのか?」
 仁和会から戻ってきた遼はさっぱりした表情で、直広が用意した水割りを飲んでいる。敦士は頷き、「毎日、早いから」と付け足した。
「あーくんも薄めで飲む?」
 敦士は礼を言い、慣れた手つきで水割りを入れてくれる直広の指先から、遼へ視線を向けた。
「おかえり」
「あぁ、ただいま」
 ミックスナッツの入った缶を開けた遼は、苦笑する。
「ピスタチオだけないぞ」
「あやの好物だからね」
 直広の言葉に、カシューナッツを口へ放り込んだ遼は足を組み直した。
「史人とうまくいったんだって?」
 グラスを掲げて前へ出した遼に、敦士もグラスを差し出した。直広が彼のグラスへ、アップルジュースを注ぐ。肝機能が低下している直広は、数年前から酒を飲まなくなった。グラス同士が音を立てる。
「無理やりじゃないよな?」
「ちゃんと確認した」
 かすかに赤くなった直広は、「でも、あーくんが相手でよかった」と言った。
「あやは気づいてないだけで、ずっとあーくんを求めてた気がする」
 その言葉は敦士にとって、嬉しいものだった。遼は直広の腰を抱き、水割りを飲み干す。
「まぁ、これでおまえも極道に入るなんて馬鹿げた選択はしないだろ?」
 敦士は史人へ話したことはないものの、彼が外科医になるなら、自分はなるべく家にいられる職業がいいと考えていた。だが、仁和会や市村組とのつながりを絶ちたいとは思っていない。
 今、考えているのは会社を立ち上げることだった。本来は遼の仕事だが、敬司に頼まれて、こっそり香港にある会社との取引に手を貸している。市村組系の組織を支える資金を調達する仕事は、なかなかやりがいがあると感じていた。
「どうかな。あやにはまだ何も話してないから。でも、危ないことはしない。それだけは約束できる」
 敦士の言葉を聞き、遼は苦笑した。
「おまえ、何か内緒事があるな。まったく、可愛げのない奴だ」
 どうして内緒にしていることがあると分かるのか、不思議に思ったものの、敦士は表情に出さず、水割りを飲んだ。
「あーくん、明日の予定は?」
「特にはない。買い物、付き合うよ」
 直広は頷き、キッチンのほうへ向かった。
「そっちこそ、なかなか引退できないんだろ? 俺が引き継ごうか?」
「生意気だぞ。優なら何とかするさ」
 話題は自然と彼らが購入した別荘のことになり、敦士はそれほど興味はなかったが、直広が嬉々として写真を見せてくれるため、しばらく話を聞いた。

 七時に鳴り始める目覚ましを止めた。敦士は隣で眠っている史人の額へキスをしてから、リビングダイニングへ出る。
「おはよう」
 直広はまだ着替えていなかったが、朝食の準備を始めていた。
「遼パパ、仕事?」
「うん、午前中だけ、事務所に顔出しするからって。あーくん、寝ててもいいよ?」
 週末でも敦士はたいてい八時までには起きている。カウンターの上に置いてある瓶に、ドライフルーツが入っていた。
「おみやげ?」
「グラノーラに入れて食べたらおいしいと思って」
 笑みを浮かべる直広に、敦士もほほ笑みを返した。

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