twilight7 | ナノ





twilight7

 食事を済ませ、見張り役の兵達を労い、チトセはイトナミ大佐のテントへ入った。キリタ大佐が二つしかない簡易椅子に座っていたが、チトセの姿を認めると、立ち上がり、席を譲ってくれる。チトセは恐縮し、席には座らず、二人の前で背筋を伸ばした。
「そう硬くなるな」
 イトナミ大佐は貴重品である酒を飲んでいた。酩酊していないが、真面目なチトセにとっては、眠る前とはいえ、眉をひそめてしまう光景だ。キリタ大佐も同じように飲んでいる。負け戦だと分かり、消沈しているのだろうか。チトセは今後のことを聞きたい気持ちを抑えて、二人が口を開くのを待った。
「アラタニ少尉もどうだ?」
 スキットルを差し出される。上下関係の厳しい軍では、上の言うことは絶対だ。
「ありがとうございます」
 チトセはスキットルを鼻先へ近づけ、中身を推測する。ウィスキーの香りだった。一口だけ飲み、すぐにキリタ大佐へ返す。喉が焼けるような感覚に、吹き出していた汗を拭った。
「本部からの指示は、待機しろとだけだ。物資不足を伝えても、それ以上のことは言われない」
 チトセが経験した実戦四年は、ほとんどが帝国領として統治を開始した地への派遣であり、時おり、暴徒と化した現地の人間を制御することが主な役割だった。力での抑圧もあったが、話し合いでの解決も多く、現状のような経験は初めてだ。
「……ヴェスタライヒ軍へ投降するのでしょうか?」
 イトナミ大佐とキリタ大佐は互いに顔を見合わせてから、チトセを見て笑った。
「投降しろと指示があれば、するかもしれない」
 本部からの命令に逆らうこともあるのだろうか。チトセが言葉を待っていると、イトナミ大佐はスキットルを仰ぐようにして、中身を飲んだ。
「レイズで調達する方法もある。小さな港町だ。人口は三百人程度。我々は武装している二百人だ」
 レイズを占拠するのは、賢明とは言えない。酒のせいで判断力が鈍っているのか、とチトセはかすかに疑った。彼らはその表情を笑う。
「アラタニ少尉は真面目だな。今のは冗談だ」
「ヴェスタライヒ軍は近くまで来ている。数日の内に本部から指示があるだろう」
 チトセは敬礼し、テントを出ようとした。両大佐とも苦手な人間だ。
「アラタニ少尉、もう少し付き合ってもらえないか?」
 額から流れる汗を拭い、チトセは二人の前へ戻る。
「疲れているなら、奥で寝ていいぞ」
 強引に右腕を引かれ、奥の空間へ引き込まれる。大佐のテントは奥行きがあり、連れて行かれた場所には簡易ベッドが置いてあった。大佐階級になると寝床にも差がつく。寝袋で眠っているチトセには十分ぜい沢に見えたが、ここで眠りたくはなかった。
 つかまれたままの右腕を振り払えず、イトナミ大佐の次の言葉を待った。だが、彼は何も言わず、そのままチトセの体を押した。
「大佐!」
 右腕をうしろに引っ張られ、足を引っかけられた。チトセはひざをついたところで踏ん張るが、イトナミ大佐の右手が右足に装備しているナイフと隠し持っていた拳銃を探り出した。
「イトナミ大佐、こういった冗談は……」
 これまでにも襲われたことはある。そのたびにうまく回避してきた。鈍い音を立てて落ちていくナイフと拳銃を横目に、チトセはイトナミ大佐と向き合う。すぐそこにはキリタ大佐がいる。彼に助けを求めようと、大きな声を出した。
「イトナミ大佐、やめてください!」
 自分より階級の低い相手なら、ためらいなく殴っていたものの、今回の相手は大佐だった。チトセは伸びてきた彼の手をかわし、酔っ払いの悪ふざけだと適当にその場を乗り切ろうとした。


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