twilight4 /i | ナノ


twilight4/i

 無線から入ってきた情報を頼りに、第三小隊も徐々に北上していた。チトセは敵地に入り込んでいる皆を怯えさせてはいけないと思い、無線で聞いた情報はあえて選別して伝えていた。その中でもっとも秘匿にしておきたいのは、ノルドライン港を目指している海軍が来ないという情報だった。
 応援部隊なしで、このままノルドライン港を目指し、第一、第二小隊と合流する。本部から、その後の指示はなかった。実際には、港町レイズでヴェスタライヒ軍へ投降することになるだろう。合流できても、三百に満たない数では全滅させられる可能性のほうが高いからだ。
 下士官にだけは、本部からの指示がないことを伝えようと思っていた。だが、チトセは思い込みではなく、自分が皆から信頼されていないことを感じ取っており、下士官ともうまく連携が取れていなかった。
 実戦四年の経験はヴェスタライヒとの戦いだけではなかった。帝国は領土が狭く、南へも侵攻したことがある。領土が小さいということは、資源も少ないということだ。戦争は避けられないと歴代の皇帝は声高に主張し、農業主体だった帝国は軍事国家へと変わっていった。
 チトセは小休止を伝え、その場に留まる。流れ落ちる汗を拭き、衛生兵のタカサトとケガ人の様子を見るため、後列まで下がった。三日間動き、一日だけテントを張って休んでいる。上陸してからこの一ヶ月の間、敵との交戦は避けられたが、緊張感の中にある状態は続いていた。
「タカサトは?」
 水を飲んでいる兵に尋ねると、「沢へ下りました」と返ってくる。チトセは断りなく隊から離れると危ない、と注意も兼ねて、タカサトのいる場所を目指す。沢といっても急な斜面でもなく、タカサトは目で確認できるほど近くにいた。
「タ」
 呼びかけてやめたのは、大声を出したら危険だと思ったからではない。タカサトの隣にルカがいたからだ。何か短く会話した後、タカサトがルカの体へ腕を回した。ルカは抱き締め返すことはしていなかったが、ゆっくりとその背中をなでている。
 二人はそういう仲になったのか、と思った。最初に感じた気持ちには目をつむる。それから、今の状況での色恋沙汰は遠慮してもらいたいという、怒りに似た気持ちがわいた。チトセには少尉としての義務と権利がある。あの二人が恋仲だというなら、上級者として厳重に注意し、二人を別れさせなければならない。
「アラタニ少尉」
 唐突に聞こえた下士官の声に、チトセは驚き、振り返った。
「すでに十五分以上経過していますが?」
 そこには小休止の管理もできないのか、という嘲りの視線がある。チトセは先ほどまで向こうにいたルカ達の姿が消えたことを確認し、沢を上った。
「出発だ」
 前列に近い元の場所へ戻り、荷を担ぐ。一瞬、うしろを振り返ると、背の高いルカはすぐに見えた。その隣にはタカサトと思われる兵がいる。
 少尉として二人へ注意すべきだ。だが、その感情は小隊の乱れを正したいという心から生まれているものではない。自分を上司として受け入れていない皆へ、力を示したいという顕示欲と、心細い時、誰かに抱き締めて欲しいという甘えからなるものだった。チトセはタカサトに嫉妬していた。

 第一、第二小隊は港町レイズから南へ七十五キロ地点の森で合流している。第三小隊は少尉であるチトセが指揮を取っているが、第一、第二小隊には大佐がいる。そこまで行けば、新たな情報もあるだろうし、今後の指揮は大佐達がしてくれるだろう。
 チトセはそのことを考えると、少し安心できた。決して口にはできないが、位のある立場というのは、合わない。戦争が終わったら、と最近、そういうことばかり考えている。兵達から尋ねられたら、「この戦争は勝って終わらなければならない」と熱弁をふるったが、本心は違う。
 帝国は犠牲を出す前に、無条件降伏をして、以前のような農業国家に戻ればいいと思っていた。ある程度の軍事力は必要だが、北の領海を奪い合う戦争に、戦力が不足しているからといって、十代の青少年を投入するなんて馬鹿げているとさえ考えている。
 父親が知ったら、平手打ちだけでは済まないだろう。雷鳴を聞きながら、足を進めていると、大粒の雨が降り始めた。チトセは落雷に注意するよう呼びかけ、三キロ先で雨がやむまで休むことを伝えた。



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