on your mark番外編36/i | ナノ


on your mark番外編36/i

 トイレの中で、史人は羞恥心と戦っていた。注文したものを、敦士には見られたくないと思っていたのに、結局、見られてしまった。一回目の排出が終わり、「透明になるまで続ける」と言う敦士の言葉に、史人は自分でするから、洗浄キットを持ってきて欲しいと返した。
「あや?」
 ノックの音と同時に呼ばれる。すでに一時間近く、トイレに立てこもっていた。三回目で透明になり、それ以上やりすぎてもいけないと分かっていた。史人はぼんやりと便座に座る。恐怖はない。だが、好きな人にすべてをさらけ出すのは、恥ずかしい。
 これまで意識したことのない気持ちで、敦士を見始めて以来、史人は彼の前でいちばんいい自分だけを見せたかった。
「……あーくん?」
「ん? どうした?」
 敦士はまだ扉のそばにいる。史人は思ったままを口にした。
「俺、あーくんのことが好きだから、変なところ見せられない。だって、幻滅されたくないし、間違えたくない」
 二十一歳にもなって、まだ経験がなかった。自分がどれほど彼を愛しているか、見せたいと思う反面、彼の期待にこたえられなかったら、と考えてしまう。練習させて欲しいという言葉は嘘ではなかった。練習で経験値が上がるなら、他の誰でもいいとさえ思ってしまう。
 だが、初めての相手だけは敦士がよかった。初体験は好きな人とするのがいちばんだと、よく直広が言っていたからだった。
「史人、俺はおまえのこと、誰よりも分かってるって言っただろ? どんなおまえでも好きだ。もし、ためらってるなら、別に今日じゃなくてもいい。少しずつ、進んでいけばいいだけなんだから」
 敦士の落ち着いた声を聞き、史人は立ち上がって、少しだけ扉を開けた。視線を上げると、優しい瞳とぶつかる。
「あや」
 史人がトイレから出ると、敦士はバスタオルで体を包んでくれる。寒くはないが、抱き締められると温かく感じ、史人は安堵して彼のほうへ身を寄せた。
「今日はもういいか」
 問いかけでも強制でもない口調で、敦士はそう言った。史人は彼の背中へ腕を回し、首を横に振る。
「したい」
 たった三文字の言葉を発しただけだ。それだけで、敦士は笑みを消し、真剣にこちらを見つめてきた。
「いいのか? 途中でやめる自信ないぞ」
「うん」
 腰に巻いているバスタオルの上から、敦士のペニスへ触れた。背伸びをして、彼の頬へキスをする。力強い手に押さえられ、史人はくちびるを奪われた。そのまま抱えられて、敦士のベッドへ下ろされる。
 敦士からは余裕が消えていたが、求められていると分かり、史人はそれだけで満たされた。腰に巻いていたバスタオルと史人の肩にかかっていたバスタオルを敷き、その上に座り直す。
「楽にしろ」
 全身を愛撫される。史人は敦士の手にコンドームと潤滑ジェルを確認した。顔と顔が触れ合うほど近い状態で、彼の指をアナルで受け入れていく。痛みはなく、異物感だけがあった。それでも、指一本だけでかなりきつい状態で、史人は彼を受け入れられるのか不安になる。
「あや、もう少し、力を抜いて」
 目の前にあった敦士の左肩へキスをして、史人は力を抜いた。二本目の指が入ってくる。かすかに感じた痛みに、思わず彼の肩へ歯を立てた。
「痛いか?」
「っだ、だいじょ、ぶ。ごめ、かんだ」
 話している間も、敦士の指がアナルの中で動く。
「あ、っあーく、ん」
 異物感のある指が前立腺へ触れる。史人はこらえきれず体を動かした。ペニスが熱を持ち、敦士がそこへの刺激をやめなければ、すぐに射精しそうになった。


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