ひみつのひ3 | ナノ





ひみつのひ3

 中等部で秀崇と同室になった生徒は、確かにいじめられていた。そのせいではないが、同室の生徒は海外へ転校した。親の都合と聞いている。その後、二年の時は智章が同室になり、三年の時は秀崇と智章の親友である高橋一輝(タカハシイッキ)が同室になっていた。
 いじめ、と聞いて稔はちょっと笑ってしまう。自分がその当事者になるとは思えない。確かに智章からの視線は冷酷に感じる。だが、そこまでされるほど稔は秀崇に近づいていないし、親密でもない。それにいじめなんて子どもっぽいことを高等部でもするなんて思えなかった。
「何かされたらすぐ言って」
 定食を食べ終えた悠紀は、「風呂、急がないと」と稔を急かした。中等部からの親友はどこか抜けていたり、ゆっくりとしたペースだったりする稔をうまくフォローしてくれる。稔はうどんを胃に流し込んで、鞄を持って部屋へ向かった。

 寮の造りは二人一部屋だが、玄関とトイレが共同であとは扉が二枚あり、それそれのプライベートルームになっている。稔が玄関の前で扉を叩く。鍵は開いており、中に入った。智章の笑い声が秀崇の部屋から漏れてくる。稔は自分の部屋の扉を開けて、鞄をおき、部屋着と新しい下着を出した。
「おかえり。鍵、ありがとうな」
 いつの間にか秀崇が扉のところに立っていた。下着を手にしたまま、稔は慌てて首を振る。
「ぜ、全然いいよ」
「風呂?」
 稔は秀崇の視線をたどり、下着を体のうしろへ隠す。
「うん」
「そっか」
 好きな人の声をもっと聞いていたいと思うのに、話を続けるだけの能力がない。自分が嫌になる。稔はくだらない奴だと思われただろうと思い、うつむいた。
「菅谷」
 名前を呼ばれて顔を上げると、秀崇が目の前にいた。好きになったきっかけはもちろんある。だが、きっかけがあっても、彼が性根の悪い人だったら惚れなかった。優しい色の瞳が稔を見つめる。
「今週末、皆で映画行くんだ。俺、明日、外出届け出すから、菅谷の分も出していい?」
 少し早口で秀崇が告げる。稔は驚いて返事もできないでいた。彼の表情が少しかげる。
「嫌か?」
「う、うううん。行く」
 ほかのメンバーも気になったが、稔は秀崇を落胆させたくなくて、行くと言った。彼の表情が明るくなる。
「じゃ、俺が出しておく」
 部屋へ戻った秀崇の背中を見送り、稔はうしろに隠した下着を握りしめる。彼と遊びに行くということよりも、彼から誘われたということが稔を幸せにした。

 稔が風呂から帰ってきて部屋に入った時だ。電気をつける前に壁へと押さえつけられた。暗くて見えなっかったが、声で誰か分かる。
「土曜、来るなよ」
 稔は肩を押さえる智章の腕に触れる。
「藤……」
 二人の仲を邪魔するつもりはないと言いたかった。だが、それを言う前に智章が吐き捨てる。
「いい気になるな」
 思いきり腹を殴られて、稔はその場にうずくまる。あまりの衝撃に涙がこぼれた。眼鏡を外して、涙を拭う。智章がどうしてこんなことをするのか理解できない。稔は彼と立場を争うほどのものを持っていない。
 稔はそのまま電気もつけずベッドに体を横たえた。明日、断りを入れよう。それが智章の怒りをおさめるいちばんの方法だ。

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