on your mark番外編30/i | ナノ


on your mark番外編30/i

 敦士にとって、自分はやはり兄なんだと自覚した。特別な絆はあるが、それが恋愛感情になっているのは自分だけで、敦士は違う。
 実習の片づけを終え、先に帰ってもらった敦士へ電話を入れる。迎えにいく、と言われたが断り、史人は二十時三十五分発の電車へ乗り込んだ。遼はいつも護衛をつけてくれるが、史人は今まで一度として、護衛がどこにいるのか、見つけられたことはなかった。
 敦士が一緒の時は、彼に聞けば、どこに何人いるのか教えてくれる。電車に乗る時は同じ車両だったり、隣の車両だったりするが、史人は今もまったく分からなかった。
 昔、絵本を買ってもらった帰りに、直広がさらわれたことがある。病院へ会いにいけるまで、もう直広と会えないかもしれないと思い、とても不安だった。遼が自分達へ護衛をつけるのは守るためだ。
 改札口を出ると、敦士が立っていた。
「ただいま」
「おかえり」
 迎えにこなくてもよかったのに、とは言わなかった。自分のために来てくれた。史人は敦士の隣へ並んで歩く。
「風呂、わかしてある」
 実習の日は先に風呂へ入る。史人は礼を言い、キッチンで夕飯を温めなおす準備をする敦士を尻目に、バスルームへ向かう。
 ハーフパンツに大きめのTシャツを着て、髪を乾かした。テーブルにはカボチャコロッケとサラダ、ヒジキと鶏肉の炊き込みご飯が並ぶ。ジュンサイの味噌汁が最後に置かれた。史人は椅子に座り、直広と同じようにグラスへ麦茶を入れてくれる敦士を見上げる。
「どうした?」
「うううん、何でもない。いつもありがとう」
 向かいに座った敦士は、ノートパソコンを開く。炊き込みご飯をおかわりして、明日必要なものを鞄に詰めた後、史人はソファに寝転んでテレビをつけた。リモコンを手にしたまま、何度かチャンネルをいじっては、少しだけ見入る。
「あや」
 史人ははっとして、目を開ける。左手に持っていたリモコンが落ちた。
「ベッド、行くか?」
「うん。ハミガキしてくる」
 自分の足でベッドまでたどり着き、史人はうつ伏せた。
「電気、消すぞ」
「待って」
 顔を上げて、敦士を呼んだ。まだ月曜なのに、とても疲れている。だが、先輩とのことは明確にしておかなければならない。
「先輩とは付き合ってないよ」
 立っていた敦士は、ベッドへ座る。
「そうなのか?」
「うん」
「別に好きな奴がいるから?」
「うん」
 うつ伏せから仰向けになり、敦士を見上げる。彼の指先が髪へ触れた。聞かれたら、こたえようと思った。彼は髪をなでるだけで、何も言わない。史人は目を閉じる。
「ずっと、あーくんといられるって思ってた」
「いるだろ?」
 史人は首を横に振る。目を開けたら、敦士が隣へ寝転んだ。
「一緒にいる」
 こちらを向いて、そう言った敦士の指先が、そっと頬をなでていく。史人はその手を握り、彼のほうへ寄った。
「……どれくらい?」
 敦士の胸元でささやくように聞いた。
「ずっとだ」
「あーくんは、就職して、成功して、結婚する。俺とは時々、電話で近況を知らせあって、二年に一回くらい、パパ達に会いにいって、俺は、姪っ子や甥っ子の世話を喜んでして……現実的じゃない?」
 敦士の左手が背中へ回る。
「俺が思い描いてるのと違う」


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