twilight5 | ナノ





twilight5

 ユーカリの多い沿岸部に比べると、チトセ達が歩いている森の中は幹を束にしたような大木が続いていた。後方を振り返りながら、ルカとタカサトの距離を確認する。
「アラタニ少尉」
 隣に並んだ下士官が小声で尋ねてきた。
「レイズから南へ七十五キロ地点で合流とうかがいましたが?」
 下士官の言いたいことは分かる。今、その地点を通り過ぎようとしていた。チトセは少し道をそれたところまで、彼を導く。皆には聞かせられない話だということは、彼にもすぐ分かったらしい。立ちどまった数人に、彼は、「先へ進め」と声をかけた。
「無線が壊れでもしましたか?」
 チトセは無線を使う時、自分のテントへ入る。そして、その内容を誰にも聞かせなかった。下士官は何度かチトセのテントへ残ろうとしたが、いつも丁重に断っていたため、多少の嫌味は我慢している。
「応援部隊は来ない」
 下士官の顔色が変わる。当然だろう。戦況は芳しくないが、先に上陸している自分達が沿岸部を押さえれば、軍艦とまではいかないが、輸送艦は入ってこられるはずだった。応援部隊が来ないということは、その輸送艦すらないということだ。
「第一、第二小隊もこの地点からの無線連絡を最後に、発信がない状態だ。おそらくレイズへ向かっているとは思うが、合流できてもヴェスタライヒ軍に気づかれている可能性が高い」
 チトセは下士官の瞳を見つめた。彼の年齢を知らないが、自分より歳上であるのは確かだ。落胆の色をした瞳は、次に怒りを映した。
「いつ分かったんですか? どうしてすぐ……無能だな」
 最後の一言は、まるで父親から受けた言葉のようだった。すぐに情報を伝えなかったのは、混乱させたり、怯えさせたりすることを避けるためだ。伝える情報は取捨選択しろと教えられた。だが、すべてを伝えていても、おそらく同じことを言われたに違いない。
「やみくもに北へ進ませているんですか?」
「合流できなくても、レイズまで行けば、本部と連絡が取れると予想している」
 下士官はチトセを嘲笑した。
「投降しろ、と?」
「犠牲は出したくない」
 隊列へ戻ったチトセは、暗うつな気持ちを押し殺す。自分の判断一つで、あずかる命を危険にさらしてしまう。
「アラタニ少尉、斥候が戻りました」
 チトセが前列へ急ぐと、斥候に出していた二人の兵が見えた。
「少尉、北西五キロ先に第一、第二小隊を見つけました。イトナミ大佐とキリタ大佐に我が隊の位置を伝えています」
 五キロ程度なら、急げば一時間で合流できそうだ。チトセは斥候を労い、後列へ伝令を回す。
「アラタニ少尉!」
 小走りに駆けてきたのはタカサトだった。
「カトウなんですが、おそらく肺炎を起こしていると思います」
 衰弱していた二人の兵士のうち、一人はすでに回復していた。
「合流したら、様子を見て、帰還させるべきです」
 援軍が来ると信じているのはタカサトに限ったことではない。チトセは約束できないことに頷けるはずもなく、「帰還させるかどうかは大佐に任せる」と返した。
「……あなたの部下なのにですか?」
 チトセはタカサトの大きな瞳を見つめる。彼は他の者達のような見下した表情はしない。歩みを止めて、彼の瞳を凝視した後、チトセは何も言わずに前へ歩いた。どこにいても、誰といても同じ気がする。どんなに努力をしても、自分の思いを理解してもらうのは難しいと思った。


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