on your mark番外編24 | ナノ





on your mark番外編24

 好きなケーキを二つずつ選び、史人は上機嫌で帰宅した。ソファへ大の字になるようにして背中をあずける。敦士はケーキの入った箱を冷蔵庫へしまってから、史人のシャツやジーンズを脱がせてくれた。史人を楽にして、敦士は肩から提げていた彼の鞄と史人の鞄を床の上に置く。
「あーくん、いつもおれがいちばんだね」
 背中をあずけたソファで大きくのけぞると、ガラスの窓からは夜景が見えた。
「当たり前だろ」
 ガラスに映った敦士の姿に見惚れてしまう。史人は体を戻して、敦士を呼んだ。彼が隣へ座ってから、彼のひざの上に座る。
「あや」
 敦士は少し驚いていた。昔はよくしていたが、最近はこんなふうに接触することはなかった。特に下着一枚だけでひざに乗るなんて、まるで恋人同士のようなことは避けていた。
「まだ酔いが覚めてないな。水、持ってくる」
 脇の下へ手を入れて、体を動かそうとした敦士へ、史人は抱きついた。
「史人」
 困った声を出す敦士を抱き締めて、「ファーストキスはいつ?」と尋ねる。敦士は立ち上がろうとした体をソファへ沈めた。
「ちゅうがくのとき?」
「忘れた」
「うそつき」
 史人は体を離して、敦士の肩へ両手を置く。黒い瞳の中には自分しか映っていない。
「おれ、きょう、せんぱいとキスしたよ」
 敦士が二度、瞬きを繰り返した。
「……付き合うのか?」
 敦士は肩へ置いていた史人の手を握る。頷いたら、反対するだろうか。史人は反対して欲しいと思った。
「うん」
 ふっと視線をそらした敦士は、「そうか」と言って、手を離し、大きく脱力した。
「いいの?」
「俺の許可がいるのか?」
 苦笑している敦士はこちらを見ない。史人は不安になり、彼の肩をつかむ。
「いらないけど、でも、おれ、だきょうしてる。ほんとはすきでもなんでもないけど、ほんとにすきなひとは、すきになっちゃだめだから」
「誰? ほんとに好きな奴って誰のことだ?」
 もう一度、自分を映す黒い瞳を見つめた。敦士のことが好きだと言ったら、どうなるだろう。史人には今まで築いてきた関係を壊すだけの勇気はなかった。
「いえないよ。だって、そのひとにはもうつきあってるひと、いるし、きっとおれがすきってしったら、こまる」
 敦士は逡巡するような表情を見せた。
「もしかして、遼パパ?」
 史人は慌てて首を横に振った。
「ちがう、あーくんのしらないひと!」
 嘘がばれないように、敦士に抱きつき、どうしたら、敦士と結ばれるか考えた。だが、一瞬の考えは安直で、愚かな思いつきにしかならない。
「あ、あの、そのひとは、けいけんほうふ、そうで、だから、あーくん、おれのおねがい、きけるよね?」
 強い力で体を離され、敦士はそのまま史人を隣へ座らせた。
「内容による」
 少し怒っているようだったが、史人は敦士が自分に対しては甘いことを知っていた。直広を暴言で傷つけた時ですら、敦士は自分を諭して、味方でいてくれたからだ。
「……セックスのれんしゅう、させて」
 敦士の瞳が大きく開いた。頷いて欲しくて、史人は敦士の手を握る。

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