きみのくに17 | ナノ





きみのくに17

 ティトは二つしかない部屋から出て、もう一つの部屋へ入った。火の消えた土間が見え、そこには大きな鍋が置いてある。ベッドは一つしかなく、彼はこの部屋で寝ていた。
 木製の椅子に腰を下ろしたティトは、深呼吸とともに目を閉じる。長い船旅で衰弱していた体は、考えていたより回復に時間がかかるらしい。青年は自分のことを、「マヌ」と名乗った。
「ティト」
 扉が開く音の後、名前を呼ぶ声が聞こえた。市場に出かけると言っていたマヌは、手にしていた袋の中から果物を取り出す。彼は赤茶色の皮をむき、中から出てきた白い実を差し出した。
「リチの実です。どうぞ」
 ティトが礼を言い、白い実を頬張ると、マヌは袋の中からリチの実が入った小さなカゴと肉を取り出した。彼は笑みを浮かべ、地面に座り、リチの実の皮をむいていく。最後の一つをむき終わると、彼も一緒に食べ始めた。
「ティト」
 マヌの声に彼を見下ろすと、青い瞳がこちらを見ていた。ティトの故郷にもマヌのような瞳を持つ者はいた。吸い込まれるような青にしばらくの間、見惚れてしまう。すっと伸びてきた手が額へと触れた。
「まだ熱がありますね。薬草を使った食事を用意します。横になっていてください」
 マヌはティトのためにゆっくりと話し、ティトが立ち上がるのを助けてくれた。もう一度、ベッドへ横になる。彼は裏にある井戸からくんだ水を運び、ティトの額へ冷たい布を当ててくれる。
「マヌ」
 振り返った彼に、「ありがとう」と声をかける。笑みを浮かべた彼の表情は優しく、ティトは心の底から安堵している自分に気づいた。

 熱が下がり、体力も戻ったティトは、マヌの代わりに井戸から水をくみ上げる作業をしていた。マヌが一人で暮らしている小屋は、海岸に近い。彼はここに一人で住んでいる。
 市場のある街にはレンガ造りの家が多いものの、周囲は森に囲まれていた。マヌの話では、拓けた地域はほとんどが砂漠だったらしい。長い時間をかけて、人間と精霊が和解し、砂漠を森へと変えた。
「ティト、あと一回でいいよ」
 火を起こし、井戸の水を湯にしたマヌは、大きなたらいに湯を張る。
「少し温かいほうが、血行にいいってお医者様が言ってたから」
 普段は湯に変えることなく、水浴びしているため、マヌの行動を不思議に思っていたが、自分のためにしてくれたのだと分かり、ティトは笑みを浮かべた。
「裸になって、中に入って。肩までは無理だけど、僕がうしろからかけてあげる」
 ティトは少し恥ずかしいと思ったが、同じ男同士なのだから、と思いきって服を脱いだ。マヌのほうを確認すると、彼は布を桃色の液体へ浸していた。
「リチの花から取れたエキスだよ」
 マヌへ背を向けて、たらいの中へ入ると、彼はゆっくりと肩から湯をかけてくれる。温かい水の中へ入るのは初めてだったが、医者が言ったように血のめぐりはよくなりそうだ。彼は甘い香りのする布で背中を優しく擦り始めた。
「気持ちいい?」
「あぁ」
 マヌは背中と腕を洗ってくれた後、布をティトへ差し出した。ティトは自分の手の届く範囲を洗い、たらいから出る。体を拭く布を受け取り、ベッドの置かれた部屋へ着替えを取りにいった。
 裏へ出ると、すでに冷めてしまっている湯の中へ足だけつけているマヌの姿が目に入る。
「マヌ、もう冷たいだろ?」
 実際には発音や文法が間違えているかもしれないものの、マヌはティトが懸命に使っている古代聖語を難なく理解してくれた。振り返った彼の姿に、一瞬、頭を押さえる。

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