falling down 番外編12 | ナノ





falling down番外編12

 リンゴとニンジンをジューサーへ入れて、ボタンを押した後、トビアスは冷蔵庫からハムやチーズ、ジャムを取り出した。ウッドデッキのソファへ寝転んでいるレアンドロスが、上半身だけを起こす。
「手伝おうか?」
 トビアスは、「もうできるよ」と返事をして、温めていたパンをオーブンから出し、バスケットへ並べていく。フレッシュジュースをグラスへ注ぎ、テーブルへ置いた。席に着いていたレアンドロスが笑みを向けてくる。
「ありがとう」
 隣の席へ座ったトビアスも笑みを返した。レアンドロスはカティエスト地熱開発研究所で働き始めて二年目に入り、トビアスも同研究所に勤めて一年が経過しようとしていた。今夏は二人で四週間の休暇を取っている。今日はまだ休暇の三日目だった。
「朝ゆっくりできるのは嬉しいな」
 半分に切ったパンへクリームチーズを塗り、ハムをはさんだレアンドロスは、大きく口を開けて頬張る。トビアスは先にフレッシュジュースへ口をつけた。庭を眺めながら、のんびり食事をするのは、朝食や夕食に限らず嬉しい気分にさせてくれる。トビアスはパンの上にハチミツをたっぷりと塗った。
「体調は?」
 優しい瞳がこちらを見つめた。トビアスは口を動かしながら、首を縦に振る。休みに入ってから、ベッドの上以外でも体を求め合っていた。この辺りでは一軒しかない別荘は、周辺を森に囲まれており、訪問者は車でしか来れないため、二人きりの世界だ。
 もちろん大雨や大雪のせいで、送電線が切れたり、テレビが映らなくなったりすることも多いものの、レアンドロスの書斎にはトビアスがまだ読んだことのない本がぎっしりと詰まっていた。雨の音、あるいは暖炉で薪が立てる音を聞きながらの読書は、トビアスを幸せにしてくれる。

 トビアスは進路を決めるまでずいぶん悩んだ。転部を考えた時期もあったが、物理学部に留まり、先に卒業したレアンドロスとは一年の差がついてしまった。
 ゼミで世話になっていた教授から、大学へ残るという選択肢を与えてもらった。博士号を取り、教授の研究室へ残るというのは、インターン先もなく、進路に迷っていたトビアスには魅力的だった。
 だが、大学へ残れば、レアンドロスはこれまで通り、片道二時間ほどの道を車で往復することになる。彼はトビアスの進みたい道を選んで欲しいと言ったが、彼の時間を犠牲にしてまで大学の研究室へ残りたくはなかった。迷っていたトビアスへもう一つの道を示したのは、カティエスト地熱開発研究所だった。
 トビアスの研究していた、地熱エネルギーの利用方法に関する論文を読んだ現在の上司が、彼の下で働かないかと誘ってきた。それは願ってもいない就職先だったものの、当時はレアンドロスが手を回したのかと不安になり、レアンドロスには内緒で研究所や上司を訪ねて確認した。
 結論からいえば、トビアスの就職に関して、レアンドロスは何も知らず、上司もレアンドロスとトビアスは同大学の同学部出身という認識しかなかったらしい。書類選考はなく、上司と部署の長であるチーフ二人と面談した後、すぐに決まった。
 就職先が決まったことを伝えた時、レアンドロスはとても喜んでくれた。彼はたとえ国外であったとしても、トビアスのためなら研究所の職員は辞めてもいいと言っていた。
 カティエスト地熱開発研究所から話が来た時、レアンドロスが手を回したと疑ったことを恥じ、トビアスは彼へ謝罪した。彼は不要な謝罪だと言い、この件に関しては本当に何も知らなかったと言っていた。
 部署は異なるものの、同じ建物内で働いているため、行き帰りやランチタイムは一緒だ。二人が婚約までしている仲だと知れるのは、三ヶ月もかからなかった。
 互いに社会人となった。この四週間の休暇には結婚して、婚姻届を提出する一大事が含まれている。
 トビアスはすでに食べ終わり、庭の景色を楽しんでいるレアンドロスの頬へ指を伸ばした。彼は指先へ触れ、それを口元へと持っていく。食むようにくちびるでついばまれた指先を見て、トビアスは頷いた。

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