on your mark番外編18 | ナノ





on your mark番外編18

 バスで市立図書館まで出向いた史人は、医学関連の本棚を回っていた。購入するべき本も多いが、すべてを購入していたらきりがないため、一部だけが必要な場合は、借りたり、コピーしたりしている。
 敦士は窓際の席に座り、新聞を読んでいた。休みの日はたいてい敦士と一緒に過ごしている。時々、友達から誘いがあるが、小学校からの親友である林つながりの交友関係は、敦士も入れて遊ぶことが多い。
 現在の学部での友達も敦士のことは皆、知っている。苗字は違うが、弟だと言えば、それ以上のことは深く聞かれなかった。自分の居場所を確認するように視線を上げた敦士に、史人はほほ笑みかける。
 昔からそうだった。敦士は寂しがりで心配性で、自分の姿が見えないとすぐに探し始める。そういうところは直広に似ていると思った。三冊の本を持ち、貸出しカウンターで、受付番号を言うと、職員がうしろの棚から貸出希望の本を取ってくれた。
「難しい本ばかりですね」
 市立図書館はよく利用するため、職員とは顔なじみになっていたが、今、貸出し作業をしている男性職員は初めて見る顔だった。
「あ、はい。授業についていくのも大変なんで、先に予習しておくんです」
 史人は笑みを浮かべて、借りた本を鞄へ入れる。
「ありがとうございます」
 職員が何か言おうと口を開きかけた。史人はそれに気づいて、足を止める。
「あや」
 すぐうしろに来ていた敦士に声をかけられ、史人は鞄を彼へ手渡した。
「また来週、返しにきますね」
 史人は軽く会釈してから、鞄を持ってくれた敦士へ、「甘いものが食べたい」とねだった。敦士は肩へかけた鞄の位置を調整しながら、カウンターのほうへ視線をやる。
「新顔だな」
 一瞥した後はすぐに歩き出して、ここからそう遠くない喫茶店の名前を出した。史人が気に入っているケーキセットが食べられる店だ。それに頷きながら、「難しい本、読んでるね、みたいなこと言ってた」と適当にこたえる。
「ふーん」
 気のない返事でも、心配しているのだと分かる。史人は鞄につけているクマのマスコットをつかみ、敦士と並んで歩く。
 敦士は小学校高学年の頃から、異性に好かれ、同性からは憧れの的になっていた。史人の後ばかり追うため、時おり、「ブラコンだ」とからかわれていたものの、本人はまったく気にしていない。

 夕食を終え、史人は先に風呂へ入った。土曜の夜の過ごし方は、ほぼ固定されてきている。英語の勉強のために見始めた海外ドラマが始まるまでは、勉強するか、読書するか、ゲームをするか、の三択だ。
 史人はソファに寝転びながら、今日借りてきた本をめくる。直広へ同性にしか興味が持てない、と告白したのは十六歳の時だった。それ以降も気になる人はできたが、告白したり、付き合ったりということはない。
 高校の時からのクラスメートと付き合っている林は、「案外、近くに理想の相手がいるもんだ」と言っていた。だから、医学部内を見渡して、いい人がいないか探してみたが、いいなと思う人はいなかった。
 もっとも、勉強で忙しい自分には恋愛は向いていないかもしれない。史人は人差し指で本の端をなぞる。どれくらい好きかにもよるが、自分のことを知ってもらうための時間や努力が面倒だと感じてしまう。
「強め?」
「うん」
 キッチンから冷蔵庫を開け閉めする音が聞こえてくる。しばらくすると、カクテルを用意した敦士が、ローテーブルへグラスを置いた。
「お待たせ」
 敦士はウィスキーをロックで入れてきている。

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