on your mark番外編7 | ナノ





on your mark番外編7

 ベッドの上で三度目の絶頂を迎えた後、直広は眠ってしまった。高岡も充足感とともに、そのまま横になり、シャワーを浴びないまま眠った。
 アラームの音に邪魔されることなく、高岡は朝までぐっすり寝ていたが、クローゼットを開く音で目が覚めた。直広がアイロンがけを済ませた服を、丁寧にしまっていく。時計を見ると、まだ十時を過ぎた頃だった。
「子ども達は?」
 いつもなら聞こえてくる声がしない。高岡の声に直広は振り返った。
「おはようございます。二人とも林君のところへ遊びにいってます。朝食、食べますか?」
 クローゼットの扉を閉めた直広が、そばへ寄ってくる。高岡は起き上がり、彼の腰へ手を回した。
「わっ」
 そのままベッドへ押し倒して、彼の首筋へキスをした。
「二人がいないなら、シャワールームへ行かないか?」
 笑みを浮かべて言うと、直広は両手で胸を押し返してきた。
「俺はもうきれいに洗いましたよ」
「俺に抱かれるためにか?」
 直広の力は大したものではないが、高岡は上から退いてやる。彼は頬を染めながら、「違います」と否定した。
「明るいうちからするなんて、何か、嫌です。せめて、その、夕方とか……」
 消え入りそうな声で話す直広に、高岡は彼から見えないように背を向けて、笑みを浮かべた。
「冗談だ。食事が済んだら、行こうか。運転は俺がする」
 シャワーを浴びて、食事を済ませた後、高岡はコート手にした。直広の首へマフラーを巻いてやり、車の鍵を持つ。私用の時しか自分で運転しない。外にいる護衛にはすでに伝えていた。地下駐車場から車を出し、一般道へ出ると、うしろから彼らの車がついて来る。
 直広の母親が亡くなった時、墓を用意する金がなく、海へ散骨したと聞いた。史人が生まれるまでは、彼女の誕生日に海へ行っていたらしい。去年は時間が作れなかったが、史人が小学校へ上がる年、今日のように二人で海へ行った。

 天気はよかったが、散歩している人も少ない浜辺は風が冷たい。高岡は手にしていたコートを着た。波打ち際へ近づく直広を追う。波に当たるぎりぎりのところで、直広は一度しゃがみ、海水へ触れた。
「冷たいだろ」
「大丈夫です」
 直広は立ち上がり、ポケットからハンカチを取り出して手を拭いた。それから、彼は少しの間、目を閉じる。時おり、迷うことがある。彼に真実を話すべきかどうか、思案に暮れることがある。
 史人は母親の存在を直広へ尋ねなかった。高岡は史人に、彼女は亡くなったと言った。事後承諾だが、直広へそのことを告げると、彼女は外国で生きていると信じている彼は、「それでいいのかもしれません」と返事をした。
「弟は……健史は、優しくて、史人のことも気にかけてくれました。時々、手を上げたり、賭け事にはまったりしてたけど、たけは、迷惑かけてるって分かってたんだと思います」
 コートのポケットに手を入れた直広は、こちらを見上げた。
「最期に、ごめんって謝ってた。俺に逃げろって言ってた。たけは、俺達のことを考えてくれてた」
 直広の頬に涙がつたう。彼は自らの指でそれを拭った。
「今でも、たけが息を引き取る時のことや、楼黎会の事務所にいた時のこと、他にも色々、夢に見ます。でも、全部、遼に出会うための道だったって、思ったら、受け入れられます。母と弟に感謝しなきゃ」
 泣きながら笑みを浮かべた直広は、もう一度、海へ向かって目を閉じた。彼を抱き締めたい衝動に駆られたが、黙祷が終わるまで待つ。

番外編6 番外編8

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