on your mark番外編6
枝豆をオリーブオイルに漬け込んだつまみと、赤ワインを飲みながら、高岡は直広が風呂から出てくるのを待っていた。敦士の新しい服を見せてもらい、史人が帰ってから、四人でそろって食事を済ませた。
「俺も少しだけいいですか?」
風呂から出た直広は、ワイングラスを手にして、隣へと座る。
「あぁ」
高岡は直広のグラスへワインを注いだ。香りを楽しみ、一口味わった直広は、「すっかりクリスマス気分です」と笑った。まだ十一月だが、街はすでにクリスマスムードになっている。彼は敦士と寄った店や、なかなか教えてくれない学校での話を聞き出した、と高岡にも教えてくれた。
史人はよく話すが、敦士はあまり自分から話すほうではない。幼稚園へ通っていた頃は、言いたいことがうまく言えないのか、言わないのか分からないが、敦士は突然、泣いたり怒り出したりしていた。
直広は時々、幼稚園から呼び出され、そのまま家へ連れて帰ることもあった。敦士は物静かに見えて、実は激情型なんだろうと思う。市村組を始め、組織の人間は、いずれ敦士か史人が仁和会を継ぐのだと考えているようだが、高岡は自分の父親と同じ考えを持つようになった。
二人には、この道ではない、別の好きな道を選んで欲しい。高岡は切実にそう願っていた。直広の髪を指ですく。赤ワインより、いい香りがした。
「明日、海へ行くか」
直広は大きな瞳でこちらを見て、頷く。それから、そっと胸に頭をあずけてきた。毎年ではないが、時間があれば、この時期に海へ行っていた。高岡は直広の背中から下のほうへ指を滑らせる。
くちびるへキスをして、しばらくソファの上で直広の体をもてあそんだ。足の裏をさすると、笑い始める。高岡は子ども達の笑顔同様、直広の笑みが好きだった。
直広の薬指にあるリングへキスをして、彼のことを抱えた。愛人達を切っていった頃、今まで一人に決めたことがなかったために、皆すぐに連絡してくると思っていたらしい。高岡自身も同じ相手と連続して寝るというのは、初めてだった。
相性の良し悪しではなく、高岡は直広と体を重ねる時、彼が自分を見る瞳を気に入っていた。直広はすべてをさらけ出した上で、信頼しきった瞳でこちらを見つめてくる。彼の瞳に見つめられ、かすれた声で、「遼」と名前を呼ばれると、高岡は彼のことを一生閉じ込めておきたくなるほど、愛しさを感じた。
二度目に挑んだ後、ぐったりしている直広の背中をなでた。目を閉じていた彼は、仰向けになり、こちらを見つめる。右手を引かれて、彼の思うままにさせた。手をつないだまま、彼は枕の下へ手を持っていき、また目を閉じる。
子どものする仕草のようで、可愛いと思った。めったにないことだが、直広は時おり、言葉を使わずに甘えてくる。互いに昔話はしないものの、高岡は直広の生い立ちやこれまでの生活を知っていた。
今でも子ども達と自分のためなら、どんなに面倒なことでも手を抜かない。そのくせ、直広自身のことになると、すぐに遠慮する。高岡は、枕の下で指先同士を絡めて遊ぶ直広の肩へ、強めのキスをした。
「バスルームに行こう」
肩からくちびるを離し、高岡は左手で直広の臀部をなでる。潤滑ジェリーで濡れていた股の間へ指を滑らせ、彼のペニスをいじった。
「……バスルームでしないって約束してください」
直広は枕から顔を上げて、ちらりとこちらを見た。もちろん、音の漏れにくいこの部屋以外で、体を重ねることはある。今までは大して気にしていなかったが、史人が三年生に上がってから、一度だけ様子を見にきたことがあった。
その時はバスルームで行為にいたり、おそらく声が響いていたのだろう。寝ぼけ眼の史人は扉を開けて、「何だ、パパ達か」と声の正体を確認した後、また部屋へ戻っていった。直広は翌朝も動揺していたものの、史人は記憶にないらしく、いつも通りだった。
あの夜以来、バスルームでしようとすると、直広は嫌がる。高岡は少しずつ熱を持ってきた直広のペニスの先を、強くこすった。
「ん、ッア」
「バスルームではしない」
高岡が笑いながら言うと、直広はむっとした表情を浮かべて、枕へ顔を埋める。彼の体を仰向けにして、ベッドへ肘をつく。
「もっとおまえを感じたい」
耳元でささやくと、直広は小さな声で、「俺も」とこたえた。 |