――本当にあれは、義兄に向ける視線なのか。
あれは、本当に「義兄」として懐いているだけなのか。

幸か不幸か謙也は気付いていない。
純粋に義兄として慕われているのだと考えている。
自分に向けられる気持ちに気付いた時、謙也はどうするのだろうか。

昼食を食べている間も、蔵ノ介くんの甘えっぷりは凄かった。
俺を警戒しているのか、見せつけるように謙也に甘え続ける。
着替える前の言葉だけで、あれ以降は特に何も言ってくることはなかったが、目が訴えかけてくる。
謙也(これ)は俺のものだと――…


昼食が終わり、用事を済ませる為に白石の家を出たが、きっと俺がいないことをいいことに甘えまくっているのだろう。

用事を済ませ、帰ってきてからも一悶着だ。
夕食は蔵ノ介くんの好きなチーズリゾットだったが、できるだけ2人を見ないようにして食べ続ける。
謙也はやはり久しぶりに会えたことが嬉しいのかよく話しかけてくれたが、俺としては謙也が話しかけてくれる度に睨みつけられるので正直心休まる暇がない。
そんな夕食を終え、何事もなく風呂を終えた後、寝る場所のことでまた揉めることになる。

「侑士、寝る場所なんやけどな。俺と一緒の部屋でええやろ?ちょっと狭いけど我慢してな」

俺と謙也が良くても、良くない人がいることを忘れていた。
構わないと頷きかけたところで、当然のように反対されてしまう。

「謙也、それはどうかと思うで。侑士さん、お客さんやねんし、明日も何か予定入ってるんやろ?疲れさすようなことは良くないんちゃう?お客さん用の布団無いし、謙也のベッドに2人はキツイやろ」
「でも、そうしたら侑士寝てもらうとこあらへんやん。従兄弟やし、多少の狭さは我慢できるよな?」
「俺は……」
「謙也が俺のベッドで寝たらえぇんちゃう?」
「そしたらお前どこで寝るねん」
「だから、侑士さんには謙也の部屋で一人寝てもらって、謙也は俺の部屋で俺と一緒に寝たらえぇやん。いつものことやねんし、もう慣れてるやろ。な?」
「久々やから、侑士と話したいこともいっぱいあるし…」
「それで寝不足なったら、侑士さん明日大変やろ。今日はもう諦めて大人しく寝たらえぇやん」
「…そうやな、その方がえぇかもな。悪いな侑士。俺の部屋で寝てくれるか?」
「あぁ…俺は別にかまへんけど…」
「ほら、侑士さんもそう言ってることやし。どうぞ、気にせずゆっくり休んでくださいね」

こんなやりとりの後、俺は一人で謙也のベッドで眠ることになった。
ベッドの中で一人思う。
最初はどうなることかと思ったが、2人を見ていると蔵ノ介くんが一人空回りしているのがよくわかった。
鈍感な謙也は兄として慕われているのだと思い、彼の気持ちに全く気付こうとしない。
そもそも、彼がそういう目で自分を見ているということにすら気付いていないのだろう。
あれは苦労するはずだ。
あの2人が今後どうなるのか楽しみになる。
しかし、今日はあの2人にあてられた。謙也に自覚はないのだろうが、はたから見るとイチャイチャイチャイチャ…、迷惑この上ない。
東京に居る少し勝気な恋人を思い、たった1晩離れただけだというのに、少し寂しく思いながら眠りへと落ちていった。


次の日の朝、用事を終えて新大阪へと向かう。2人もわざわざ見送りに来てくれた。
(蔵ノ介くんは謙也についてきただけといった感じだったが…)
2人に礼を言い、東京に来た時は是非遊びに来るようにと言い添える。
ベルがなる。
そろそろ乗り込まなければ…
蔵ノ介くんに聞こえないように、謙也を引き寄せ、耳元で囁く。

「恋人できたら絶対教えるんやで。あと振りまわされすぎんようにな」

それだけ言うと、引き寄せていた腕を離す。謙也は何のことか分からず首を傾げていたが、蔵ノ介くんはと見ると、やはり凄い形相で俺を睨みつけていた。
そんな彼に内心笑いながら、最後の最後に余計なことを言ってやる。

「謙也、伝言あったん忘れてた。謙也の初恋の恵里奈からな。また泊まりにおいでって。手料理ごちそうするからって言ってたで。あいつ、謙也に気があるんちゃう?俺は反対せぇへんし、えぇと思うで」

それだけを言うと、さっさと中へ入ってしまう。
席に着き、窓越しに2人を見ると、蔵ノ介くんが謙也に詰め寄っているのが見えた。
ずっとあてられ続けていたのだから、これぐらいの意地悪は許してもらおう。

東京に着いたら、一番に恋人の元に行って、存分に愛し合おうと思いながら携帯を開き、メールを作成し始めた。



20100712


1万HITを踏んでくださった蔵弥様に捧げます。
遅くなってしまい、大変申し訳ございません。
『蔵謙の義兄弟ネタで、侑士が絡む話。蔵は高3、侑士・謙也が大学2年ぐらい』ということでしたが、いかがでしたでしょうか。
白石謙也にしたのは完全に私の趣味です!(爆)忍足蔵ノ介と白石謙也で迷ったのですが、やはり蔵謙サイトとしては白石謙也は外せないかな、と思いこういう形にさせていただきました。
ちなみに恵里奈ちゃんは侑士のお姉ちゃんです。(ペアプリから拝借)
題名に関しては、某BLを参考にさせていただきました。
それでは、この度はリクエスト本当にありがとうございました!!
暑い日が続きますが、体調等どうぞご自愛くださいませ。


この作品は蔵弥様のみお持ち帰り可能です。

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