君が呼ぶ特別


「光ー、ダブルスの練習しよか!」

「ユウジ!家庭科の課題やねんけど、こんなもんで大丈夫かなぁ…」

「小春ごめん…世界史教えてくれへんかな、補習かかってんねん!」

「銀さん、ごめん!この荷物運ぶの手伝ってもらわれへん?」

「ちぃ!また授業も出んとこんなとこでさぼって!!」

「健坊!これから1年のサポート?頑張ってな」

「金ちゃん、今からたこ焼き食べにいこか」

「オサムちゃん、競馬新聞ばっかり読んでんと、ちゃんと指導して!」


「……白石、今度の日曜日、空いてる…?…チケットもらってんけど、映画、見に行けへん?」


……なぁ、これちょっとおかしくないか?


――俺には付き合って3ヶ月の彼女がいる。
出会ってからの年数も入れると、3年。

忍足謙也。
クラスメイトで、テニス部のマネージャーをしてくれている。
本人としては、女子テニス部に入りたかったらしいが、あいにくとうちの学校に女テニはない。
それでも、テニスに関わりたかったのか、男子テニス部にマネージャーとして入ってきた。
仕事は完璧。雑用だけじゃなく、選手のサポートもきちんとこなしてくれる。
他にマネージャーとして入ってきた他の女子のように、レギュラーメンバーに色目を使うこともない。
まぁ、そんなマネージャーはおっても邪魔なだけやから、去年俺が部長になったと同時に理由つけてやめさせたけど。
マネージャーが一人になって仕事が増えても愚痴を零すことなく、一生懸命仕事をこなしてくれる。
たまに、コートに入って打ちあうこともあるけど、そこらへんの部員じゃ相手にならないほど強い。
レギュラーですら、たまにポイントを取られることがある。

3ヶ月前に、謙也から告白された。
本人は卒業まで黙っておくつもりだったらしいが、たまたま2人きりになる機会があって、その時に弾みで言ってしまったような感じだった。
勿論、俺が断る理由はない。
むしろ、ずっと謙也のことが好きだった俺としては願ったり叶ったりだった。
とりあえず、謙也のファーストキスはその時にいただいた。
顔を真っ赤にして照れる謙也が可愛くて可愛くてたまらなかった。
あれから3ヶ月が経った今でも、慣れないのか未だにキスをするときは少し緊張して赤くなっている。
あと他に恋人らしいことといえば、毎日一緒に帰ったり、休日に一緒にデートに行ったりぐらいだろうか。
倦怠期や喧嘩もなく、恋人同士として順調に毎日を過ごしてきた。

が、最近になってあり得ないことに気付いてしまった。


「白石!聞いてる?!…日曜日空いてへんの?」

はっと意識を戻すと、謙也が心配そうに俺の顔を覗きこんでいた。
部活が終わり、2人で手を繋いで帰宅している最中だった。
調子でも悪いのかと心配そうにしている謙也に慌てて大丈夫だと告げて、空いていると答えると嬉しそうに笑ってくれた。

「マルイの上の映画館行こか。待ち合わせはロケット広場にする?」
「高島屋の前でもいいで」

待ち合わせの場所と時間を決めると、謙也が待ち遠しいのか、すごく楽しそうにしてくれている。
そんな謙也が可愛くて、自然と繋ぐ手に力がこもる。
俺とのデートを楽しみにしている謙也が可愛くて、愛おしくてたまらない。
自然と笑みが零れてくるが、それと同時に気付いてしまったあることが頭をよぎる。
さっきまでの楽しい気持ちが萎んでしまい、ため息をつきそうになるのを必死で堪えた。
謙也の前で落ち込んだところを見せるわけにはいかない。
なんとかいつも通りに振る舞うと、謙也を家まで送り届け、俺も自宅へを帰っていく。
誤魔化すことで精一杯で、謙也がどんな顔で俺を見送ってくれたのか気付かずにいた。


恋人になって3ヶ月になるというのに、謙也は未だに俺を『白石』と呼ぶ。
他の部員は全て名前で呼んでいるにも関わらず…だ。
普通彼氏を名前で呼んで、他のやつは名字とちゃうんか。
それが何で俺が名字で、他の奴が名前やねん!
千歳なんかあの図体で『ちぃ』やぞ!!
何でやねん!
勿論、気付いてすぐに謙也には、さりげなく名前で呼んでほしいと告げたことがあった。
しかしさりげなさすぎたのか俺の想いには気付いてもらえず、相変わらずの『白石』呼びだ。
かと言って、他の部員を名字で呼ぶように言うのも嫉妬していると告げるようで嫌だ。
矛盾しているが、謙也にはそこまで心の狭い人間だとは思われたくない。
一緒に居る時も、いや一緒にいるからこそ、『白石!』と呼ばれる度に落ち込んでしまって仕方がなかった。
……女々しい…。
今度のデートも、謙也から誘ってもらえるなんて滅多になく、本当ならすごく嬉しいはずなのに。
一緒にいればいるほど考えてしまう。
焦りすぎなのだろうか…。
家に帰っても気分は落ち込んだままだった。


――日曜日、デート当日。
謙也を待たせるわけにはいかないので、待ち合わせ場所に少し早めに着く。
少し待つと、まだ時間前だというのに謙也が走ってやってきた。
レースのフリルのキャミソールにカーディガン、スキニージーンズだ。
あまりフリルやレースを好まない謙也だが、俺とのデートの時は女の子っぽい格好で来てくれる。
俺の為だと思うと嬉しくなる。

「そんなに走って焦らんでもええのに。待ち合わせ時間までにも余裕あるで」
「白石かって、早く来てるやんか」

それに、少しでも白石を一緒にいたくて…と呟く謙也が可愛くて仕方ない。
…可愛くて仕方がないのに、また『白石』と呼ばれることに引っかかってしまう。
なんとか微笑むと、映画館へと向かった。




20100626

「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -