リビングに行くと、お湯を沸かしコーヒーの用意をする。もう手軽にインスタントでえぇやろ。
お湯が沸くのを待っている間、さっきの反応の訳を聞いた。
「コーヒーって気分やなかったん?」
「へ…?あぁ、さっきのか?いや、そういうんやないねんけど……。俺な、カフェインとかあんまり効かへんねん」
眠気覚ましになれへんから、どうしようか思っただけやと苦笑する。
「寝る前にコーヒーとか紅茶飲んでも、寝られへんなることもないし、眠られへん時にホットミルク飲んでも、寝れるわけやないしなぁ」
眠い時は何をしても眠いし、眠れないときは何をしても眠れないと言う白石に、コーヒーを入れて手渡し、向かいに座った。
「そういうもんなん?」
ちなみに俺は眠れなくなると困るので、ミルクを大量に入れた。カフェオレだ。
「そういうもんやな。気分転換とか休憩にはえぇけど、眠気覚ましにはならん」
だから眠い時は大変だと苦笑する白石だが、言葉を切ると俺を見つめ、微笑んだ。
ちなみに付き合って5年が経つが、未だにこうやって見つめられて微笑まれるとドキドキする。視線から逃れるように、カフェオレに目を落とし、口に運んだ。
「…でもな、眠気覚ましは未だに見つからんけど、眠くない時にも眠れるようにはなったんやで」
「そりゃ良かったやん。人間睡眠は大事やもんな。で、何使ったら眠れるようになったん?」
良さそうなら俺も是非使わせてもらおうと、顔をあげるとまだ俺を見つめている白石と視線がぶつかった。
「謙也」
「……何?」
「だから謙也。…眠られへん時も謙也を抱き締めてたらいつの間にか眠れてんねん」
決して茶化すわけでもなく、幸せそうな顔をして真面目にこんなことを言う。思わず手に持っていたカップを落としそうになった。顔がみるみる赤くなっていくのが分かる。 明らかに嘘なのに、真に受けるな、俺!
「な…な、な……し、信じへんからなっ」
「何で?」
「…お前、抱き締めてたら寝るどころかいつもあんな…っ」
3日前も1週間前も、抱き締めるだけで終わらず、俺が寝かせてほしいと頼んでも寝かせてくれなかったくせに!って何恥ずかしいこと考えてんや、俺は!!
真っ赤になって口をパクパクさせていると、思い当たったのか、いきなり白石が吹き出した。
「ぷっ……く…くくくっ」
「笑うなや!」
「くくっ…、いやすまんすまん。あれは謙也が可愛すぎるから悪いねん。更に言わせてもらえば、あれは眠られへんのじゃなくて眠れへんの」
どう違うねん。俺を、だ、だだ抱き締めてたら眠れるんとちゃうんか。
笑いながら残っているコーヒーを一息に飲み干すと、おかげで目が覚めてきたと白石が立ち上がった。
「じゃあ続きやってくるわ」
「そのまま寝てしまえ。で、レポート出し忘れたらえぇねん」
カフェオレに視線を落としいじけていると、そんな俺の頭を撫で、とびきりの甘い声で囁かれた。
「…明日レポート提出したら、明後日からは時間できるから、デートしにいこうな」
ぽかんと顔を上げた俺の頭をくしゃっと撫でると、自室に戻ってしまった。
白石がいなくなったと言うのに、まだ顔が赤い…っていうか熱い。
「俺が用事入ってたら、どないすんねん…」
きっと俺の予定なんて、とっくに把握されているのだろう。
でも悪い気はしなくて、もう楽しみにしている自分がいる。

でも一番嬉しいのは、デートの約束より何より、俺と一緒にいたら眠れると言ってくれたことだ。
今日は、白石が終わるまで付き合ってやろうと、カフェオレを飲み干すと新しいコーヒーを入れに行った。





20100503


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