giogio | ナノ





かれの前ではまるで自分が清らかな女のように思えた。
ブローノ・ブチャラティの思慮深く意志の強いまなざしを愛し敬う気持ちが、私をそういう女のように錯覚させていた。

からりと晴れた日の洋上のように、かれの表情は穏やかだった。
これほど悲しいことが、この先の一生に待ち受けているとは思えなかった。心が空っぽになるとか枯れてしまうとか、そういうことのようだった。そこにあったものを喪った悲しみだけが胸に鈍く響いて、喉に詰まっている。
凪の日の潮風が頬を、髪を撫でて過ぎていく。
彼や彼女の何がどれほどかれを変えたのか、私には分からなかった。私に対して変わらない友愛をくれるブローノ・ブチャラティに満足し、かれの怒りや苦しみに手を添えるだけだった私には。

棺が運び出されて墓地に埋葬され、人々はかれを悼んで三々五々に帰路に着いた。礼拝堂の正面の出窓から西日が射しこんで、十字架の足元は燃えるようなオレンジに光っている。長く黒々と伸びた自分の影のそばに、誰かがそっと立った。
見ると、隣には金髪の少年がいた。私と背丈もそう変わらない華奢なその彼は、背筋をぴんと張って、目を閉じてただ祈っている。少年の美しい横顔を見るともなしに見つめて、この彼が、ブローノ・ブチャラティという男に与えたもののことを考えてしまう。

例えば私とブローノ・ブチャラティの生死がもしも逆だったとして、今私が悲しんでいるほどにはかれは悲しんでなどくれなかっただろう。切り替えが速いし、かれはとても現実的だった。それに私はかれという人間を掴むことがついぞできなかった。
うらやむ気持ちはあった。ジョルノやトリッシュがかれをより強く変えたのだと私にもわかったからだ。
胸の下で組んだ両手が指先からひんやりと冷え切っていて、私は自分が今祈ってさえいないことに気付いた。
ジョルノ・ジョバァーナは、人が死んだときにどう祈るのだろう。作り物めいて美しい彼。天使の彫像に似た横顔に向かってどんな言葉も投げようがなかった。

教会の扉が開いている。潮風が喪服のスカートをはためかせていた。どんなに決然とした態度のつもりでも私の足音は頼りなく屋内を突っ切って、粗く舗装された道先へ出た。芝の敷かれた岬を崖のほうへ歩いていく。芝を踏むと、さくさくと柔らかい音がした。

かれは、その魂が天に召されたからといって安んじていられるのだろうか。憎むべき敵が打ち倒されたから、かれは安らかだろうか。信念に殉じたかれは、その自分の生きざまに満足しただろうか。

「ナマエ」
少年の声は、幼いけれど芯に厳粛な響きを持っていた。

「みじめな女だと思うでしょう。私は思う」

堂々としたこの少年に対して自分はいったいどうだ。白々しいような明るい声が言葉に出した以上にみじめに思えてたまらず、下唇をきつく噛んだ。
このうつくしい少年が以後の組織のすべてを握るだろう。パッショーネのディアボロを倒し、ネアポリスに君臨する。……私もそこで生きていけるだろうか。私にとって打ち倒すべき何者かはまだどこかに生きているのに。

以後の組織で身を立てる不安よりも、不意に掻き起こされた火が心の端を焼いていた。
きっと箍が外れたのだ。復讐を至当と望む気持ちは体に根付き、ブローノ・ブチャラティという友人を喪って、私はそこへ立ち返るより他になかった。





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