giogio | ナノ




「そうです、復讐でした」

いとしい父を八つ裂きにして燃やした男たちへの、あの煉獄のような熱気の中に自分を放り込んで去って行った彼らへの。痛みを知らせるための報復。

「思い知ってほしくて。私がどれだけあの日のことを思い、彼らのことを考えてきたか」

父は炎にまかれて死んだ。よく庭先でお喋りをした父の護衛のマルケスも、私の犬に決して懐いてもらえなかったメイドのピアンも、皆等しく死ぬことに恐怖していたのに、痛みや怯えよりも強く憎しみを感じていた私だけが生き残った。
その私にできることと言ったら憎しみを燃やすことだけだった。怯えて縮まりひっそりと身を隠してその日その日を生き延びたことを神に感謝するだけの、そんな生き方は到底無理だった。善なる行いに、悪しき行いに、等しく報いを。神様。私が望んでいるのはたったそれだけ。

──彼らに私を娼婦と言わせるものか。最愛の恋人、何にも代えがたい女と呼ばせよう。無垢なほどまっすぐに想わせて、それに裏切られる苦しみを与えよう。すべてが順調で、世界は美しくて、自分は確かに神に守られていると信じていた、幼い私と同じように、苦しんでもらおう。尊厳を破壊して、心臓を握りつぶしてしまおう。


「ここまであからさまにし始めたのには何か理由が?」
「隠す必要がなくなったので。それだけです」

かれは言った。そんな不毛なことはさせない。俺が見ているからな。そんなことはしないでくれよ。ポプラの並木道を何の気なしに歩き回る間に、教え込むようにゆっくりとした口調で、諭すように優しく、かれは言い続けた。そんなことはもう忘れた、と私も言い続けた。
ヒステリックに喚き散らして頭をかきむしって泣くよりも、にやにや笑って適当な嘘をつく方がずっとごまかしが利いたのだ、私にとっては。
本当はきっと子どものように泣いてすがってみたかったけれど、ブローノ・ブチャラティの思慮深い視線の前では到底できなかった。


「お話というのは解雇通告でしょうか、ボス」
「いいえ。まあ、半分は」
「というと」

私が行なってきた私刑について、ボスが問題視するようなら謹慎や解雇どころか最悪の場合には死もありうると思っていた。
けれど私は今日自分が死ぬと思ってここに立ってはいないし、それになんだか雲行きが違う。
いつものように上質なデスクの上で繊細な指先を組み合わせた氷のような美貌のボス・ジョルノが、許しを与えるように微笑んだところで何か自分にとってものすごく都合よく事が起こり、進んでいる気がしてきたのだ。

「ボスの愛人も立派なファミリーの構成員だよ、ナマエ」

ショックを受けている傍ら、それが天職かもしれない、と頭の隅で打算をささやく女がいる。

今まさにボスに返答をすることができないでいるのに、ブローノ・ブチャラティの葬儀の日、棺が運び出されてすっかり人がいなくなった礼拝堂で、ジョルノ・ジョバァーナが隣に並んで祈っていたことを思い出していた。





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