giogio | ナノ



ブチャラティは自分以外の誰にも、彼女の出自を明かさなかったのだ。

カタカナファミリーは、ディアボロのボス時代にパッショーネと対等の商取引を行った数少ない組織のひとつであり、同時に、パッショーネによって潰された数多い組織のひとつだった。

ナマエはカタカナのボスの、たったひとりの愛人が産んだ一人娘だった。
ナマエは幼い頃に父親の本邸に住んでいて、パッショーネによるカタカナ邸への襲撃に巻き込まれた。スタンド能力の発現によって難局を逃れた後にパッショーネにその身柄を引き受けられた。構成員として迎えられ、同じ年の頃にパッショーネに迎えられたブチャラティとそのときに出会っている。彼らがまだわずか12の少年少女の頃の話だ。

ジョルノを襲った例の殺し屋はその昔、やり手のカタカナファミリーに煮え湯を飲まされ、その後のカタカナ襲撃の一角を担ったパッショーネの二次団体の人間だった。
調べがついてみればありきたりな話なのだった。皆殺しにされたはずの憎い一族の生き残りが、彼にとっては偶然愛した女だった。そうしておそらく女の方は、自分と相手が憎みあうべきであることを知っていた。


──彼女の、復讐だったのだ。
調書をマホガニーの机上に広げ、ジョルノはその紙面を繊細な爪の先で叩いた。ボスの部屋に設えられた黒い革のソファで、前のめりに脚を組んだミスタが苛立たしげに口を開く。

「……そんな身元の怪しい女をボスのそばに置いておくのは、感心しねェな」
「復讐心を持つとしたらそれは前ボスに対してで、彼女の復讐は完結しているはずだ」

─僕の手によって。確信があるのはそのせいだ。彼女は代行者としての彼を、そして今では自身の生殺与奪すら預けた主人を、この期に及んで拒みも裏切りもすまい。

「彼女を、個人的な愛人にする。幸い僕の両腕は指の一本欠けたところでどうということもなさそうだ」

ミスタは舌打ちすると部屋を出て行き様に言った。

「お前にしちゃあ日和見だぜ、ジョジョ。せいぜいベッドで撃たれてくれるなよ」


ひとりきりになるとジョルノは立ち上がって、ナマエ・カタカナに関する書類に指先でふれた。
女という火種はどんな組織にもありふれている。彼女をその官能的な火花にしてしまうことは、彼にとっても悔やまれるようでいて、けれど鳥肌が立つほど魅惑的なことだった。




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