giogio | ナノ





誰でも同じだ。街中ですれ違ってただ通り過ぎるだけの名前も知らない人々と同じ。
愛とは?……私だってそれを手に取ってさわってみたい。


「煙草、喫うんですね」

不意に横合いからかかった声に早朝の通りを見回すと、路地の陰から朝日の下へ颯爽とジョルノが現れた。煙を吐き出しながら、彼の若々しさに嫌気が差す。自分がなんだかとてもみじめに思えてしまう。


「むしゃくしゃしたときだけ」
「昨晩、何かありましたか」
「いいえ、今は寒いだけです」


オーダーメイドのコートの裾を翻してジョルノは私の横に並んだ。昨晩からの活躍ですこしくたびれたように思えるハイヒールが、街の石畳と一緒に朝の静謐を叩く。煙を吐く。煙草の穂先の赤い光がちらちらと明滅する。ジョルノのチョコレート色の革靴は一歩ごとに重たく威厳ある音を立てた。


「ご自慢の車はどうなさったの、ジョジョ」
「今朝は私用の帰りですから」


運転手にも知られたくないボスの秘密。若干16の少年がそんなものを作って朝帰りとは恐れ入る。
住宅街に紛れた私たちのアジトが見えた。煙を吐いて、まだ捨てるほどは短くない煙草をもう一度くわえる。
ジョルノは不意に朝日を遮るように私の前に立つと、二重にぶれて見える指先で私の口から煙草を奪った。彼の手に渡った煙草は瞬間、くすんだオレンジ色の花になった。彼はそのみすぼらしい花をくしゃりと手のひらで潰し、石畳の上へぽいと撒いてしまった。"彼"の能力のことを知っていれば大騒ぎするようなことでもないし、それに煙草の一本くらい何ということはない。ジョルノが単なる気まぐれでこんな益体もないことをするとは思えなかったけれど、追及するような気にはなれなかった。


「僕は昨日、どこで何をしたかをきっと誰にも言いません。あなたにも昨晩、そういうことがあったとしましょう」

真正面から見る彼の両目は、いつだって刺すように力強い。煙草をなくしたことで手持無沙汰になってしまった私はコートのポケットに手を突っ込んだ。朝日をバックにして、彼の金髪は後光を背負った天使みたいに煌びやかだ。

「僕はあなたにしつこく言及したりはしない。あなたを」

彼は不自然に口を噤んだ。私は、歯切れの悪さはこの少年には無縁と思っていた。微細にふるえる金の睫毛を、何か希少なものを見る気持ちで眺めている内、彼がその形のいい唇を開く。

「あなたをどんなに知ろうと思っても」

どうしてそんなに苦しそうな顔をするの。私が乾いた唇の間からそう聞く前に、彼は私を抱きしめた。細い肩はふるえていた。
朝日が霧を払って、街は目覚める。




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