giogio | ナノ





「ナマエは可愛い人ですよね」
「それ本気で言ってんのかよ、ジョルノ」

うへえ、と付け足して舌を出したミスタがおまけに肩まですくめて見せた。あんなに可愛げのない女が他にあるか、というのがミスタの意見だ。確かにジョルノやブチャラティ以外にはなかなか手厳しいイメージのある彼女だが、彼らと彼女の出会いの逸話を聞く限りでは致し方のないようにも思える。

「それにあいつ、とんでもねープッターナってもっぱらのウワサ」
「だってそれ、噂でしょう」

しかもチームのメンバーが面白おかしく言っているだけの。
男を陥れる力量は十分にあるとして、彼女がそれを進んでやっているようには、ジョルノには思われない。

――ブチャラティのこと、好きなんですね。そう指摘されたときから、ナマエはジョルノに、自分のどうにもならない恋の話をしてくれるようになった。
「あのね、ジョルノ。……聞いてくれる?」小首を傾げて女同士の世間話でもするように彼にそう切り出すナマエのことを、ジョルノは簡単に思い浮かべることができる。
かれの話をするとき、薄氷のように冷たいナマエの表情は春を迎えたように容易に溶けだすのだ。


ジョルノがやってくるまでの間、誰ひとりとして彼女のあの一直線にブチャラティに向いた視線に気付かなかったのだろうか。切なげでさみしげで、それなのに焦げるように熱い視線。彼女のぬかりなく怠りのない努力。かれとの等距離に留まろうとする意地。
――だって失望されたくないじゃない?
彼女のやわらかく笑う声は、パソコンのキーボードを叩く音と一緒に蘇る。彼女は仕事を片付けるかたわら、年下の相談相手に向かっていたずらに女の顔を覗かせる。
ただの同僚だったらどんなにかいいことだろう。ナマエをただ、目指す先の路傍の石の如くに思えるなら、彼女のそういった仕草も表情もこんなに苛立ったりはしなかった。
もう落としたも同然の男を相手に、かれの気持ちが分からないと言って尻込みをするような臆病なナマエに苛立っている。彼女のまるで生娘のようにはしゃいだ恋の話など取るに足らないはずなのだ。それをただあしらうだけのこともできずにいる。
惜しみない気遣いと努力を注いで、彼女はあの男を愛しているのだ。


「彼女みたいな人に愛されたら、どんな気持ちでしょうね」
「その言い方、マジっぽいぜ」
「半分くらいは」
「……マジかよ」


ジョルノはソファで身動ぎもせず足の間で組み合わせた自分の手を見つめた。
アジトのリビングに、ナマエが自分の肩を揉みほぐしながら現れたのは、ジョルノとミスタの間に沈黙が下りた、まさにそのときだった。

「コーヒー淹れるけど、いる?」

眠たそうに目をこすりながら聞いた彼女に、ジョルノだけがお願いします、と反応した。
ナマエの淹れるコーヒーはいつも丁寧だ。彼女が用意したカップが3つであることを横目に確認して、ジョルノはため息をつく。ブチャラティの分だ。すぐに分かってしまった。

案の定、カップをふたつ載せたトレイを持ってナマエはすぐに居間からいなくなった。階段を上っていく音がやけに響く。彼女の淹れたコーヒーに口をつけ、ジョルノは気だるくため息を漏らした。






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