giogio | ナノ





彼女は完璧とも言えるほどの身体をひるがえして振り返った。
何人もの男を誑かした悪女の身体だ。
ジョルノは手持ち無沙汰に硬貨をいじりながら、きっと以前なら振り返るのと同時に見られたであろう彼女の笑顔を恋しく思った。彼女は元々人好きのするタイプで、一番新入りのジョルノへの対応は特に甘いものだった。
「どうしたの、ジョルノ」……彼女がそうやって言うときに笑うためには、かれが必要だったのだ。その事実は今さらのようにジョルノの心に陰を作って離れない。
――惨めな女だと思うでしょう。私は思う。
不必要に明るい声であのときの彼女は言った。後ろ姿に向かって何か声をかけてその言葉を遮ることでさえ彼にはできなかった。


ネアポリスで祭りがあった日のことだ。仕事はオフにしようと生真面目なリーダーが言い出した。
メンバーは人数の分だけ異なったリアクションを取ったが、祭りに行けることには皆素直に喜んでいるようでもあった。じゃあデスクに張りついたまんまのナマエにも声をかけてやろうぜ、とナランチャが弾む声で言ったのをジョルノは聞いていたし今も覚えている。フーゴが柔和な調子で賛成し、アバッキオがぶつくさ言いながら遠まわしに同意し、ミスタが「じゃあ俺が」などと言って扉を挟んだ隣室にひとりきりで書類と向かい合っているはずの彼女のところへ行こうとした。
そのタイミングで、それまで休憩がてらに新聞を広げていたブチャラティがソファから腰を浮かし、他の誰にも有無を言わさぬ足取りで隣室に去って行った。短いノックの後、ドアが開いて、閉まる。チームの誰もが、馬に蹴られる前にとばかりに目をそらし、各々でいそいそと出かけ始めた。ジョルノは、ミスタに促されるまま彼と出かけることになった。

そのあとに見かけたナマエは、胸元の空いたワンピ―スの上にタイトなジャケットを羽織って、いつものスーツ姿のブチャラティと歩いていた。
先に行っちゃうなんて薄情な連中よね、と彼女の明るい声が町中に響く陽気な音楽に混ざってジョルノの耳に届いた。この人混みの中でよくもまあ、と彼は自分の耳の良さに少し呆れてしまった。ついでに目もいい。露店の立ち並ぶ広場を抜けた先、緩やかな白い石造りの坂をふたりが並んで去っていくのを見た。ブチャラティに笑顔を向けた彼女の横顔が、遠目にもはっきりと甘やかで、ジョルノは思わず目を眇める。ナンパが空振りに終わったミスタがビール腹の中年を押しのけてジョルノのところに戻ってきて、次はお前も付き合えよ、と文句を垂れた。そのあとでジョルノの視線の先に気付いて、ああ、と知った風に声を漏らす。
「相変わらず、仲がおよろしくて麗しいこったなァ」
坂を上りきって下り始めたふたりの姿が見えなくなる。ジョルノもミスタの意見に同意だった。特にナマエの、あのとろけるように甘い顔。例えふたりが見たとおりの恋人同士でなくても、ナマエが彼に恋をしているのは簡単に分かることだった。
私を好きになって――とでも言わんばかりの彼女の色香も、不意にくしゃりと幼い印象になる笑顔も、軽口を叩きながらも有能さを示すしたたかさも、そのすべてがすべて、彼女からブチャラティへ、惜しみなく捧げられているものだった。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -