小話 | ナノ




普段の格好は西アジアでは目立ちすぎるのでチャドルを着るように、とアヴドゥルとジョセフから厳命を受けたなまえは一応の承諾はしたものの、それでも厳格な着用の仕方を嫌がった。現に彼女は今も首まで隠せと言われていたのに、足元まで隠す長丈のチャドルの首元をゆるめている。髪も見えたらいけないんだっけ?とうんざりした様子の彼女はアヴドゥルからの小言も右から左にそそくさと歩いていく。偉丈夫の承太郎と並んで、白皙の肌の彼女はスークを歩くと人目を引いた。


「お前やっぱり目立ってるぜ。ちゃんと着ろよ、その何とかって服をよ」
「暑いし蒸れるし息苦しいからやだ。だいたい、目立ってるのは空条もそうだし」


花京院は振り返って、まだやっているのか、と言い合うふたりを窺い見た。なまえの顎のすっきりとしたラインとそれに沿って流れる黒髪が、ゆるく着込んだチャドルの隙間から覗いている。一般的な黒のチャドルと、砂漠の強い日差しにも耐え抜く彼女の白い肌とがいっそ美しいコントラストになっていて、そりゃあ目立つよなあ、と旅の間に彼女のことなどすっかり女などとは思わなくなってしまった花京院でさえそう思ってしまう。
彼女は丈の長い裾を蹴立てるようにして進んでいく。長丈のチャドルがどうしてもお気に召さないのだろう。


「宿まで我慢すりゃあいい話だろうが」
「普段から学ラン着込んでる人には分からないんだよ」
「お前が普段、露出しすぎなんじゃあねーのか」
「人を変態みたいに言うのやめてくれる」


大げさなため息をついてから足を速め、なまえは花京院に追いついてきた。


「花京院もさ、そんな格好でよく涼しい顔してられるよね」


見上げてくる彼女の顔が険しい。もはや睨むような目つきを受け流して、花京院は慣れだよ、とだけ言い返した。


「早くシャワー浴びたい」


ふいになまえが途方に暮れたような口調で呟いた。彼女を挟んで横に並んだ承太郎が、我儘ばかり言いやがって、と言いはしないまでもそんなような意味合いのこもった目線を彼女に投げる。
彼女はそ知らぬ顔で前方へ目をやり、前を行くジョセフたちの向こうに宿を見つけると小さく高い声で、やったあ、とまるで無邪気に呟いた。





ホテルのロビーでチェックインを済ませる間は、彼女の機嫌もそう悪いようではなかった。少なくとも日差しはなく、冷房も利いている。それでもやはり全身を覆う布が気に障るのか、フロント係が部屋の鍵を差し出すまで彼女はにこりともしなかった。


「部屋?どこでもいいです」


投げやりに言い捨てた彼女は、自分が真っ先に受け取ったルームキーを手の中でもてあそびながら我関せずといった態度のまま、男たちの公正なるじゃんけんを見つめた。
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