小話 | ナノ






私はいつかあなたが愛する誰かのために、今あなたを生かすのか。
そんなのは本当は嫌だけどでもやっぱり死なれたくないのが本音で、あなたに同じことを言ってもらえなくたっていいからとにかく生きていてほしくて、最期にあなたが私の名前を呼んでくれたりしたらきっと未練なんてなくなる。きっと。


「承太郎」


いつかあなたが愛する、あなたを愛する誰か。私はあなたの幸せを祈っているけどそれだけだ。たぶん祝福はしない。私は自分がこんなに簡単に死ぬことについて誰かを恨んだりはしないだろう。この世の最後の幸福に、私はあなたの腕の中で死ぬのだから。愛する人を一度は守り、その人の腕の中で死んでいくのだから。
私は幸せだ。…だから。


「なまえ」


息を、と。彼はその大きな手で私の頬を撫でた。覚えているのはそこまで。生きていたのはその瞬間まで。彼が、彼らしくもなく泣きそうに眇めた目で私を見下ろして、そのあとをどう続けたのか、私の貧困な想像力を以てしても想像に難くない。
息をしてくれ、と。きっと彼はそう言った。


いつか誰かに永遠の愛なんか誓っちゃったりしても、ねえ、私があなたを愛していたことを忘れないで。


♪さよならベイビー/サンボマスター
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