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結局お前は何なんだ。
空条承太郎はうめくように言った。私は肩をすくめて見せる。帽子のつばに片手をかけて顔を隠す、そういうところは高校生の頃から少しも変わっていない、四十の彼。今はもう私たちのように死の中に抱きしめられた彼。
私は私だった。彼の前に身を投げ出して死んだ、あの日のままの私だった。

「みょうじなまえ」

あなたが薄れていく思い出の中できれいに飾ったみょうじなまえ。あなたの中の美化と一緒に本物の私は風化していった。案外感傷的よね、と私がからかい半分に言ったのを、大人になった彼は聞き流したのかそれとも呆れているのか。何も言わなかった。
私はずっとあなたが好きだった。これ以上の老朽の心配がない若さの中で、死んでいる間もずっと。
彼は成人し、大人になって、相応の落ち着きを備えた。私たちのことを、忘れないけれど思い出しはしない存在にしてしまって、結婚をして、一児を設けた。生き残った三人が仲間の死を悼んでいたことは、もちろんちゃんと知っている。私も花京院もアヴドゥルさんも、もちろんイギーも、彼やポルナレフやジョセフさんの悼みや悲しみや悔しさを感じ取ることができた。
生きている限り、彼は私たちのような死人にばかりはかかずらっていられない。彼は忙しい人だった。そして彼が決め、執り行った忘却は、健全な精神にとっては当たり前のひとつの防衛なのであって、私はそれを見て安心すべき存在なのだ。私は死ぬ瞬間だけでも自分で選んだのだからそのことに関してとやかく文句を言うような権利はなかったけれど、今際に思ったことも全部うそではなかったけれど。
それでも、私の思っていたように彼は進んでいった。まさかあなたが私の予想の範疇で動くなんてと私は驚嘆した。
あなたを庇った。死んでほしくない一心で。後悔はしていない、冥途の土産には彼の泣き顔と名前を呼ぶ声、彼をこの一度だけでも守ったという充足。私の最期は幸福だった。


そうしてその幸福の上に、生きている人にしか味わえない至上の幸福はあった。



「死人は気楽だよ、空条。だからそんなに怖い顔しないでよ」


けれどついにあなたも私たちの仲間入りだ。悲しいことに。

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