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ドアを開けた途端に目の前に差し出された箱は、どう見てもケーキの箱だ。金字の筆記体で店の名前が印字されたその箱と、いつも通りつまらなそうに目を眇めて私を見ている持田さんを見比べてしまう。これってつまりどういうこと?私が黙っているのを見て持田さんが一言。

「やるよ」

…明日は雨かもしれない。





「おいしい」
「あっそ。良かったね」
「はい。ありがとうございます」


チーズタルトを前にフォークをもてあそんでいる持田さんは、真面目な顔をしてお礼を言った私を何か奇異なものを見るような目で見た。


「何、急に」
「何がですか」
「礼とか」
「言いますよ。それに、急にはこっちのセリフです」


私がフォークを動かし続けているのをちらりと窺った持田さんがチーズタルトを乗っけた皿をこっちに押しやって、家に来たときと同じトーンで「やるよ」と興味なさげに言った。いいんですか、と口に出すのはなんだか気が咎めたので、頬杖をついている彼と目を合わせてみる。とたんに彼は、ぶはっ、と失礼な感じに噴き出して笑い出した。


「超間抜けヅラ、お前」
「はい?」
「口、半開き」


私は口まで持っていきかけだったケーキの刺さったフォークを口に入れた。持田さんが私に物を与えるっていうのは何の兆候だろう。割に真面目にそんなことを考えながら、舌の上でとろけるショコラオランジュを味わう。
正面の彼はインスタントのコーヒーを飲んでいる。持ち主が使ったことのないマグカップで。


「なあ」
「はい」
「ケータイ、光ってるけど」


さっきまで笑っていたくせに急に白けた顔をして持田さんが指さした先に、床に転がった私の携帯。確かにランプが青く点滅している。拾い上げて開くところを、持田さんがじろじろ眺めているのを感じながらメールボックスを開いた。


「…持田さん、今日何時ごろまでいらっしゃいます?」
「彼氏からなんだ?」
「はい。久しぶりに来るみたいなんで」
「邪魔だから帰れって?」
「…平たく言うと」
「どう言っても一緒だろ。ウケる」


相変わらず白けた風に言いながら彼は素直に立ち上がって、じゃあね、と軽く言って出て行った。まだ箱にいくつか残っているケーキを置いて。私は行儀悪くフォークを噛んだ。
そういえばこのケーキどうしたんですか、と訊いても彼は、別に、としか答えなかった。今度来るときがいつかは知らないが、そのときには何かお礼になるようなものを用意しようか。…いらねーとか言われそうだけど。
2人分の食器を片付けながら考え事をしている内に、今日2回目のインターホンが鳴った。
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