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そんなこんな、持田さんの気分を害しただろうかとなんとなく気を揉むことが増えた。あの男のことじゃなくてもっと、自分の彼氏のことを考えて焦った方がいいのは分かっている。でもあのときの持田さんの顔が忘れられなくて。
この人は焦っているのか、悔しがっているのか、怒っているのか、それとも。うぬぼれが首をもたげて、耳の奥には面白半分の同僚の言葉。


─好かれてるからじゃないの?


…まさか。あの人にとってはたぶん都合がよくて飽きないだけのことだ。

あの件のちょうど翌週。深夜。インターホン連打の音で、私は缶チューハイを置いた。あの男が来た、と思って、ドアを開けると思った通りに彼がいた。とても酔っているようだった。


「寝る」


言って、彼は靴も脱がずにうちに上がり込もうとする。持田さん、と私が呼び止めたのを聞いて急に動きを止めると、眠いんだよ、と機嫌も斜めに彼は唇を曲げた。


「とりあえず靴、脱いでください。ベッド使っていいですから」


私の言うことを変にうんうん頷きながら聞いたあと、持田さんは玄関先にばったりとうつぶせに倒れてしまった。私がまた、ちょっと、と咎めるような声を出して彼の肩にさわると、途端にその手は払いのけられてしまった。アルコールでふやけて動きが鈍っているにしては鋭い一蹴だった。


「持田さん」
「お前のさあ、ベッド」
「洗濯してるしマメに交換してるんで臭くないですよ」
「ちっげーし……なに、マジ…ウケるー」


酔っている。先週の今日にはあんな怖い顔して殺したいくらいムカつくと私の目を見て言ったくせに。なのに酔った勢いでまるで自宅に帰るみたいにうちに来るなんてアルコールって怖い。…初めて会ったときは私がものすごくみっともなかったわけだが。でもまあこれで私だけが酒の失敗を見られたわけじゃなくなった。こんな親近感なんか芽生えてもどうしようもないんだけど。


「だから、お前のベッド」
「はい」
「何でセミダブルな、わけ」


それはもちろん男がしょっちゅう泊まりに来ていたからですよ。前は頻繁に。…最近では滅多に。


「彼氏が」
「いい」
「はい?」
「もういい、言わなくて」


彼はうつぶせの状態からやけに俊敏に身体を起こして靴を脱ぎ、勝手知ったる他人の家とばかりに寝室に消えていった。
私に彼の焦燥や私憤や思慮は知ったことではないし、彼も知ってほしいとは思ってもないだろう。
私は彼に同情しない代わりに彼の遠慮のなさを責めない。…きっと彼もそうなのだろう。同じだ。大した関係ではないけれど、お互いに適当にやれて居心地がいい。彼も似たようなことを考えているから、私の失言を流してくれたのかもしれない。分かんないけど。まあ、あっちがどう思っているかは定かではなくても私は今の生活が結構、きらいじゃない。もうなんだかそれでいい。
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