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彼が人気上昇中のモデルと一緒にいるところをフライデーされたようだ。私は生まれて初めて手に取った俗っぽい雑誌をしげしげと眺める。ごちゃごちゃと並んだ文字の中に、しっかりと「東京V、持田熱愛発覚」と安い文句。
美脚と巨乳を両立させたわがままボディは全女性の憧れの的…そりゃそうだ。つい何かの勢いがついて買ってしまった週刊誌のページをめくりながら、思わず意味もなく相槌を打ってしまう。美脚も美尻もでっかい美乳も、くびれもほしい。あわよくば美しい顔もほしい。全女性の願望。それを全部詰め込んだみたいな女性と、うちに入り浸る持田さんが、べったりとくっついて写っている見開きはなかなか、迫力があった。迫力というかなんというか、改めて持田さんは違う世界に住んでいるなあと実感する。
3、4ページで終わってしまった特集ページをなんとなくぺらぺらと何度かめくって流し見る。世の女性がほしがるすべてを持っている女性。そういう人は確かにいて、そうしてそれに相応しい男もまた、転がるように当然存在する。フットボーラ―なんてちょうどいい。…ベッカムの奥さんも女優だかモデルだし、そんなもんか。あれってまだ続いてるんだっけ?
ついこの間、このページに写っている男の方の家に泊まったなんてまるで私がおこがましいことをしたようで今さら気が引ける。普段から私の家にこの男が現れることが、そもそもおかしいんだけども。
雑誌の脇で携帯が震えた。ディスプレイには、久しぶりに表示される名前。彼氏。


「もしもし」
―…今日休みって言ってたよね
「ん?うん」
―今、実は部屋の前にいるんだけど


受話部分を耳から離して背後の扉を振り返る。別に合鍵を渡しているわけではない。すぐ後ろに立っているわけでもないのに。


「今開けるから」


通話が切れる。彼氏まで、持田さんレベルに唐突にうちに来るようになった。何か対策をとらないと、いつか彼と持田さんは鉢合わせするだろう。
ドアを開けると見慣れた穏やかな笑顔。いらっしゃい、と私が言う前に彼はするりと部屋の中に入ってくるとドアを閉めてキスをした。彼も会わない間、さみしいだなんて思うんだろうか。キスに応えながら脳裏がやけに冷めている。居間まで私の腰に腕を巻きつけたままだった彼が、こたつの上の週刊誌に気付いて意外そうに眉を上げた。


「フライデーなんか読むんだ?」
「…ああ、ちょっと気が向いて」


「東京V、持田」の文字が私の目を釘付けにする。
―俺ら仲良しじゃん、なあ?
いつもの怖い笑顔と違って悪ガキみたいに笑ったあの顔が、フライデーの写真よりはっきりと頭の裏で蘇る。…すぐ隣の男に申し訳なくなって、私は持田さんのことを考えるのをやめた。本当に仲が良いわけでもなし、彼にはちゃんと「仲良し」の女がいるじゃないか。
それに私にだって優先すべき男がいる。この間持田さんの家に行ったのだって何事もなく泊まっただけであっさり帰ったし、持田さんだっていつも通りだった。じゃあお疲れ様でした、とまるで会社の同僚や先輩に言うのと同じ調子で言った私に彼は笑って、「はいはいお疲れ」と気のない風だった。あの日から一週間と少し。持田さんはうちには来ない。きっと今までなんとなく気まぐれでほったらかしにしていた彼女を構い出したのだろう。


「ななし? なんかぼうっとしてるけど、疲れてる?」
「…そういうわけじゃないよ。ごめんね」


コーヒー淹れるね、と言って立ち上がってから、そういえば彼がコーヒーは嫌いだったことを思い出した。つい持田さんが来ているときと同じノリで。慣れてきてしまっているのが怖い。


「コーヒー以外だとココアしかないよ」
「じゃあココアで」
「…かわいいもの飲むよねえ」
「それしかないって言ったのななしだし、いっつもそれ言うじゃん」


拗ねたように彼が言った。私はいつも通りの彼に安心する。ごめんね、と軽く笑った私に、同じように立ち上がった彼が後ろから腕を回して作業の邪魔をする。
こうやって安心している間は、なんとなく底の方にこびりついた不満だとか、退屈だとかを忘れていく。心をぐちゃぐちゃにかき回されるような恋ではないけれど、きっとこれが愛ということなんだと慣れに甘えながら。


―俺に興味ないんじゃ、なかったっけ?

あんな泣きそうに怒った顔をして私を見た持田さんのことを、どうしてだか今思い出して、私は息が苦しくなる。
どうしてそんなことを?女の望みの全部を叶えた女を自分のものにしているくせに、なんだかそれってまるで私に。


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