付き合って一年と少し。少し前まで不安で仕方なかったり卑屈になりっぱなしだったりとかだったのが嘘のように今はすっかり落ち着いている。あまつさえ、彼氏ほっといて部活に遊びに飲みに旅行にと忙しい有様で、正直、時々どころかしょっちゅう彼のことを忘却する。たまに思い出しては、なんとなく会いたいようなそうでもないようなともやっとして、自分もすっかりお前のことなど忘れているとでも言いたげに沈黙する携帯を眺める。…この間メールしたの、いつだっけ。それで、会ったのはいつが最後だっけ。……どっちも二週間くらい前か。携帯は黙っている。 私がため息をついたのと部屋の鍵が不穏にがちゃりと音を立てたのはほぼ同時だった。 一瞬で強盗の二文字が脳内を掠めて飛んだ。手近にあって唯一投げられそうだったクッションを手に取って息を詰めていると、ドアの隙間から現れたのは、ちょうど連絡待ちをしていた自分の彼氏で、拍子抜けしてしまう。
「ちょっと雪男。どこでもドア方式でほいほい入って来ないでって言ってるでしょ」 「……あのさ」 「なに?」 「連絡をくれないのは、もう僕のことなんかどうでもいいってこと?」
そういえば最後にメールしたとき、二通目あたりだっけ、ちゃんと返さなかったんだっけ。そのことでへそ曲げてたのかな、この人。めんどくさいな。そう思ったのが顔に出て、雪男の方も呆れが顔に出た。
「大学に入って、ちょっと浮かれているんだろうけど」 「やめてよ、小言とか」
久しぶりに会ったのに、と冗談めかして言った私を雪男はメガネ越しにきつく睨んだ。そんなに怖い顔しないでよ。ベッドから立ち上がって雪男の前に立つ。彼の顔に触ろうと思って伸ばした私の手を、雪男は甘んじて受けるとでも言うようにゆっくり目を閉じて、いざ手がふれると頬をすり寄せてくる。
「本当、久しぶり」
呟いた雪男のメガネに私の指先が当たってちょっとずれた。彼は少しだけ口元をゆるめる。
「僕のことをほうっておいた間、色んなことができて楽しかった?」 「……お仕事お疲れ様」 「否定しないんだ?」 「だって本当のことだし」 「…………」 「でも会えなくてさみしかったのも本当なの。信じてね」 「…きみはずるい」
そのずるさを愛しているのは彼自身なのに、まるで全部私が悪いように言うのはいつものことだった。私が嘘をつかないことを彼はよく知っていて、だから大人げない八つ当たりもしたくなるのだろう。
「大好き、雪男」 「僕も愛してるから……だからもう、黙って」
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